『ミステリクロノⅢ』(久住四季/電撃文庫)

 時間SFミステリシリーズ3作目の本作では、『リグレスト』なるクロノグラフが出てきます。それを取り付けられてしまった人間の体は幼児化していき最終的には消滅してしまうという効果をもたらします。今回、その『リグレスト』が真里亜の体に取り付けられてしまうのですが、それによって彼女の体が退行して危機的な状況を向かえることが本書のプロローグでいきなり示されます。これによって読者はストーリーに対してサスペンス的な興味を抱くことになるのですが、このちょっとした時間軸のいたずらが後にむにゃむにゃ(笑)。
 時間を操る道具を回収するという大きな事件の割には、前作もそうでしたが本作もわりかし地味な展開です。あとがきでも少し「時間」より「人間」の比重が高めかもしれない本作とありますが、クロノグラフの事件もさることながら、それ以外の普通に流れている時間の方が、ともすれば無駄に思えるほど、丁寧に描かれている印象を受けます。原則があってこその例外ですから、その意味で普通の時間を大切にすることの意義は分かります。ただ、その分、いざ事件が発生してから解決するまでの流れが少々アッサリしたものに感じてしまうのも否めないところです。もっとも、本作において露骨に示されてきましたが、いろいろと伏線めいたものが徐々に張り巡らされてきていることは間違いないみたいなので今後に期待したいです。
 それはさておき、本書では真里亜が誘拐されてしまいます。その身柄の交換条件としてクロノグラフを渡すことを要求されます。いわゆる誘拐ミステリですね。しかも、本作では真里亜に『リグレスト』が取り付けられちゃってますので、タイムリミットサスペンスとしての要素まで含んでいます。誘拐事件とクロノグラフの回収。厄介な二つの事件が絡み合ってしまっているわけですが、それを解決するために策というか手順のアイデア自体はとても面白いと思います。ただ、やっぱりアッサリ解決し過ぎなのがちょっと物足りないのが正直なところです。主人公側と犯人側の双方にいえますが、情報の流れがスムーズ過ぎるのが原因でしょう。もうちょっと駆け引きとかイレギュラーな要素があってもいいように思いました。ま、これはこれで読みやすいのは確かなんですけどね。
 あとはクロノグラフの使い方ですね。特殊ルールによる解決はSFミステリの醍醐味といえば醍醐味ですが、ひとつ間違えばアンフェアの誹りを免れない微妙な問題でもあります。本作の場合は、前述のむにゃむにゃとの関係もあって、まあまあ面白いと思いましたが、クロノグラフの数が増えていくにつれて複雑化していくことは間違いないだけに、今後どうなるのか楽しみなような不安なような(笑)。
 てなわけで、次巻以降どうなるのかは分かりませんが、できれば派手な展開か、もしくは時間ものらしいメタメタなのを期待したいなぁと思ったり思わなかったりです。
 ちなみに、真里亜に『リグレスト』を取り付けた犯人って、その効果を事前にどうやって確認したんでしょうね?
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