『“文学少女”見習いの、傷心。』(野村美月/ファミ通文庫)
- 作者: 野村美月,竹岡美穂
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2009/12/26
- メディア: 文庫
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『傷心。』の元ネタとされているのはシュトルムの『みずうみ』。菜乃は心葉と遠子をラインハルトとエリーザベトに重ね合わせていますが、本編の未来を知っている読者としてはそれとは違う重ね合わせをするわけで、その対比が切ないです。また、p34で『卒業』のタイトルが出てきます。花嫁を教会から連れ去る映画での場面が有名ですが、その場面は『怪物。』の元ネタである『フランケンシュタイン』で花嫁が連れ去られる場面との対比を感じさせます。
『怪物。』の元ネタは『フランケンシュタイン』ですが、元ネタとして用いられるべくして用いられた作品だといえます。そもそも”文学少女”は主人公(本編では心葉、外伝では菜乃)視点の語りに太字による別の視点・記述が混在するという形式が踏襲されていますが、そうした継ぎ接ぎの語りは『フランケンシュタイン』におけるウォルターとヴィクターと怪物の視点が混在する形式と通じています(『フランケンシュタイン』の作品そのものがときに怪物だと評される所以です)。
『フランケンシュタイン』のモチーフは、十望子と雫の関係をヴィクターと怪物とのそれと対比させ浮かび上がらせるものとして用いられています。二人の関係の真実は確かに意外で衝撃的なものです。ヴィクターと怪物は独立した存在ではありますが、その一方で光と影・表と裏といった一体関係として理解することもできます。『フランケンシュタイン』内において、怪物はときにどこからともなくヴィクターの前に現れますが、ときに自分自身の影に怯えているのだと、自分自身の中の怪物と対話しているのだと理解できなくもありません。そんな表裏の関係が十望子と雫の関係には投影されているといえますし、『フランケンシュタイン』のモチーフが巧みに用いられているともいえます。
しかしながら、作中においてヴィクターと怪物との関係に真っ先になぞらえてしまうのは、作家としての心葉と作品との関係でしょう。自らが体験したことや周囲の人たちの感情などを継ぎ接ぎして書き上げられた小説。それは作家にとって切り離すことのできない光と影の関係にありながらも、その一方で、もはや作家の手から離れた一個の作品でもあります。もっといってしまえば、”文学少女”シリーズそのものが過去の名作を継ぎ接ぎして作られた怪物のことき存在だといえます。作家と作品との関係をそのように捉えてしまうのは作家にとって間違いなく苦しいことだと思うのですが、そこに踏み込んで描いてくれているのが”文学少女”シリーズの凄さだといえます。
創元推理文庫版『フランケンシュタイン』*1巻末の新藤純子による解説で触れられていますが、『フランケンシュタイン』といえば映画です。映画によって生み出された怪物の強烈なイメージは、ついにはフランケンシュタインがいつの間にか怪物の呼び名として定着してしまう程に*2、他の登場人物たちの存在を押しのけてしまっています。このように、『フランケンシュタイン』の原作と映画は微妙な関係にあるのですが、そうした作品を元ネタとしている本書特装版に映画化を記念したDVDが付いているのも因果なものだと思います。いや、あるいは意識的にそうしたのかもしれません。いずれにしても、原作と映画の関係を考える上でも『フランケンシュタイン』は格好の材料だといえるでしょう。
外伝は次の『”文学少女”見習いの、卒業。』で終了とのことですが、本書の不意打ちともいえる衝撃的な結末をどのように決着させるのか予断を許しません。その前に短編集の3巻が出るみたいですが、それより早く外伝の続きを読みたいのが本心です(笑)。
- 作者: シュトルム,関泰祐
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1979/11/16
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- 作者: メアリ・シェリー,森下弓子
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- 作者: 野村美月,竹岡美穂
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*1:森下弓子・訳
*2:いうまでもなく、元来フランケンシュタインとは怪物を作った科学者ヴィクター・フランケンのことです。怪物は単に怪物と呼ばれるだけで名前がありませんが、そのことも作中のとある人物と重なりますね。