私家版2010年ライトノベル ベスト10

 年末ですので書評サイトらしく一応2010年のベストラノベなんぞを挙げてみます。ちなみに私家版です。刊行年数などにかかわらず私が2010年に読んだ本の中から選ばせていただきましたのであしからず(順位も付けていません)。

“文学少女”見習いの、傷心。

“文学少女”見習いの、傷心。 (ファミ通文庫)

“文学少女”見習いの、傷心。 (ファミ通文庫)

 ”文学少女”外伝は本年中に3巻が出て完結しておりますし短篇集も年内ですべて出揃いましたが、私は『フランケンシュタイン』がモチーフとなっている本書が個人的にとても好きです。ヴィクター=作家、怪物=小説の関係は、そのまま心葉に跳ね返ってきます。ひいては「ものを書く」という行為について考えさせられる一冊です。
【関連】『“文学少女”見習いの、傷心。』(野村美月/ファミ通文庫) - 三軒茶屋 別館

ストレンジボイス

ストレンジボイス (ガガガ文庫)

ストレンジボイス (ガガガ文庫)

 いじめがテーマの作品です。ライトノベルの読者層の多くが中高生であることを考えれば真っ当なテーマかもしれませんが、その描かれ方はお世辞にも真っ当とはいえません。ですが、いじめによってクラスの生徒の多くの内申書がボロボロになったりといった展開は、いじめ防止作品としてそれなりに効果的じゃないかとも思ったり。もっとも本書の内容自体はそんな軽々しくオススメできるようなものではありませんが……。
【関連】『ストレンジボイス』(江波光則/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館

人類は衰退しました 5

人類は衰退しました 5 (ガガガ文庫)

人類は衰退しました 5 (ガガガ文庫)

 中編2作が収録されていますが、私的には過去編「妖精さんの、ひみつのおちゃかい」が好みです。厭世的で尖っていた”わたし”の性格が徐々に丸くなっていく過程には誰しも思い当たる節があったりなかったりするのではないでしょうか。
【関連】『人類は衰退しました 5』(田中ロミオ/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館

サクラダリセット 2

 本年中に4巻まで順調に刊行されているシリーズです。リセットによる未来の改変という因果関係の問題。条件関係的な因果関係のみならず責任的な意味での因果関係も見据え、さらにはそこに未来視といった能力まで絡んできます。ぼんやりしているようで油断のならない作風は緊張と弛緩のバランスが巧みです。
【関連】『サクラダリセット 2』(河野裕/角川スニーカー文庫) - 三軒茶屋 別館

アンチ・マジカル 〜魔法少女禁止法〜

アンチ・マジカル ~魔法少女禁止法~ (一迅社文庫)

アンチ・マジカル ~魔法少女禁止法~ (一迅社文庫)

 アメコミ『ウォッチマン』が元ネタのポスト魔法少女ものです。戦うべき敵を失った魔法少女は何のために戦うのか。魔法少女ものを「第一世代」「第二世代」「第三世代」と分類した上で、魔法少女の存在意義を問い直す意欲作です。
【関連】『アンチ・マジカル 〜魔法少女禁止法〜』(伊藤ヒロ/一迅社文庫) - 三軒茶屋 別館

“菜々子さん”の戯曲 Nの悲劇と縛られた僕

 本年中に2巻まで刊行されてます。私は2巻の方が好きですが、とりあえずここでは1巻を紹介しておきます。小学校時代のいじめのエピソードと、それに端を発したある事件。そのときの真相を突き止める謎解きゲームが「信用できない語り手」によって語れることによって、言いようのない緊張感が生まれています。陰険で疑心暗鬼とネガティブ要素満載なのに読後感はなぜか爽やかという不思議な作品です。
【関連】『“菜々子さん”の戯曲 Nの悲劇と縛られた僕』(高木敦史/角川スニーカー文庫) - 三軒茶屋 別館

とある飛空士への恋歌 4

とある飛空士への恋歌 4 (ガガガ文庫)

とある飛空士への恋歌 4 (ガガガ文庫)

 飛空士というミリタリー的要素と「風呼びの少女」というファンタジー的存在とをいかに両立させるのかというリアリティとファンタジーのバランスが本シリーズの隠れたテーマであるといえますが、ここまでは見事なフライトだといえるでしょう。5巻で完結とのことなので期待して待ちたいと思います。
【関連】『とある飛空士への恋歌 4』(犬村小六/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館

アクセル・ワールド 6

 新たな登場人物まで出てきて長期化の様相を呈してきているシリーズです。個人的にはもっとアクセルを踏んでゲームクリアまで描いて欲しいと思うのですが、ただ、本書ではゲーム内のみならず社会的にも子供にアクセルを踏ませる状況が描かれていて面白いです。そうしたゲーム以外の設定がもたらす子供たちへの影響というものは今の世の中にもかなり通じるものがあるといえるでしょう。
【関連】『アクセル・ワールド〈6〉浄火の神子』(川原礫/電撃文庫) - 三軒茶屋 別館

子ひつじは迷わない 走るひつじが1ぴき

 本格ミステリの探偵とハードボイルドの探偵は果たして共存できるのか。謎解き役と解決役とが分離したミステリです。”菜々子さん”2巻もミステリ的に類似の構造を指摘することができますが、そうした分離はアイデンティティ(自己同一性)に不安を覚えがちな現代の世相を反映したものであるといえると思ったり思わなかったり。来年刊行予定の2巻が楽しみです。
【関連】『子ひつじは迷わない 走るひつじが1ぴき』(玩具堂/角川スニーカー文庫) - 三軒茶屋 別館

二年四組 交換日記 腐ったリンゴはくさらない

二年四組 交換日記 腐ったリンゴはくさらない (スーパーダッシュ文庫)

二年四組 交換日記 腐ったリンゴはくさらない (スーパーダッシュ文庫)

 『15x24』(新城カズマ集英社SD文庫)[15x24] - 三軒茶屋 別館を髣髴とさせる日記形式の多視点からの描写。さらには、作中では本名のほとんどが伏せられており、別紙異名一覧表と照らし合わせることによって作中人物の本名と異名とを結びつける必要があるというパズル的要素が盛り込まれた異色作です。とはいえ、内容自体はちょっと変わった高校生による友情&恋愛物語という王道的なお話です。結構オススメです。
【関連】『二年四組 交換日記 腐ったリンゴはくさらない』(朝田雅康/集英社SD文庫) - 三軒茶屋 別館


 今年は個人的にライトノベルは豊作でした。上記ベスト10には挙げませんでしたが、『曲矢さんのエア彼女』『星図詠のリーナ』が完結したり、『嘘つきは姫君のはじまり』がいよいよ佳境を迎えたりと、かなり満足な読書ライフでした。来年には『涼宮ハルヒ』の新刊がついに出るらしいですし*1(現物を手に取るまで信用できませんが・笑)、来年もライトノベル界はいろいろと面白そうですね。
【関連】私家版2009年ライトノベル ベスト10 - 三軒茶屋 別館