『洋梨形の男』(ジョージ・R.R.マーティン/河出書房新社)

洋梨形の男 (奇想コレクション)

洋梨形の男 (奇想コレクション)

 6編の作品が収録された中短編集です。個人的には、「子供たちの肖像」と「成立しないヴァリエーション」は傑作、それ以外はまずまずだと思います。マーティンのファンなら必読といっていい内容です。以下、作品ごとの雑感を。

モンキー療法

 肥満が社会問題となっているアメリカらしいホラーテイストの佳品です。

思い出のメロディー

 旋律の思い出にして思い出の戦慄。

子供たちの肖像

 作家の内面をホラーの形式で描いた鬼気迫る作品。「書くこと、そして作家が自分の夢と恐怖と記憶を掘り起こすとき支払う代償についての物語」と作者は述べている。
(本書巻末「編訳者あとがき」p335より)

 1985年ネビュラ賞中篇小説(ノヴェレット)部門受賞作です。この作品を描くのに作者がどんな代償を払ったのかが気になります(笑)。

終業時間

 箸休め。

洋梨形の男

 (ネタばれ伏字)ドッペルゲンガーものでもあり実は吸血鬼ものでもあり。(←ココまで)本末、もしくは主客の転倒といった「転」の妙が味わえる作品が本書には多いですね。

成立しないヴァリエーション

 ノースウェスタン大学時代チェス・クラブに所属していたマーティンの経歴が反映された自伝的色合いの濃いチェス小説でありのSF小説でもある逸品です。
 将棋棋士谷川浩司は著書『構想力』角川oneテーマ21)のなかで「敗因をでっちあげてでも気持ちを切り換える」(p118より)として、次のように述べています。

 将棋にかぎらず、大切なのはその負けから何を学ぶかということである。なぜ負けたのか、敗因をしっかり分析し、では次にどうすればいいのか考えることが重要なのだ。そうやって、負けた経験をいかにプラスにできるかでその人がどれだけ第一線で活躍できるかが決まってくるのではないかと私は思う。
(『構想力』p119より)

 将棋の対局では終局後に感想戦が行なわれます。感想戦では、「あの手は良かった」「この手は悪かった」といった指し手の善悪の判断の他、「あの手の代わりに違う手を指していたらどうなっていたのか?」といった変化手順も検討されます。その結果、感想戦のなかではときに勝敗が引っくり返ることがあります。それはあたかも歴史について”if”を考えるのに似ています。ですが、いくら感想戦で勝敗を引っくり返そうとも、現実の勝敗が引っくり返ることはありません。にもかかわらず何ゆえ感想戦を行なうのかといえば、それは未来のために他なりません。勝負師として同じ負けを繰り返さないため、あるいは研究者として将棋の真理を少しでも解明して次につなぐために行なわれるのが感想戦です。

構想力 (角川oneテーマ21)

構想力 (角川oneテーマ21)