『よつばと!』の背景が細かくなったことについて考察する

よつばと! 8 (電撃コミックス)

よつばと! 8 (電撃コミックス)

以前、『よつばと!』8巻では1巻に比べ背景の線が細かくなっているという記事を書きました。
『よつばと!』8巻 「現実の中の非現実」によるリアリティ - 三軒茶屋 別館

1巻と見比べると最新巻である8巻は背景の線が非常に細かいことに気付きます。

読んだ当初は「背景を写実的にすることにより、漫画的なキャラであるよつばをよりいっそう引き立たせる」効果かと思いましたが、この記事を読んで他の可能性があるのではないのかな、と思い立ち、考察してみました。
http://www.h2.dion.ne.jp/~hkm_yawa/kansou/yotsuba-8.htmlhttp://www.h2.dion.ne.jp/~hkm_yawa/index.html

ようするに、線による情報が増えた代わりに、キャラクターの内心の言葉が激減したわけである。
 情報といっても文字の情報が読者に与える影響は絵の比ではない。どんなに下手くそな絵でも、よつばが「ネコだ」と言えばネコなんである。しかし、五歳児のよつばが博識なはずがなく、よつばの見たものが描かれたとしても、これは何々という説明書きも台詞も入りやしない。全ては絵そのものがただ描かれるしかない。

この「線が細かくなる=情報量が増える」という記述を読んでぱっと思い浮かんだのが以前アイヨシが記事にした「キャラの視点」という記事。*1
『3月のライオン』と4つの視点 - 三軒茶屋 別館
この「視点」という観点を『よつばと!』に当てはめてみると意外としっくりきます。
つまり、『よつばと!』の「世界」は「よつばから見た世界」であり、
巻が進むにつれて線が細かくなる(=情報量が増える)ことで、「よつばが見る世界が変わっていく」ことを読者に疑似体験させる
効果があるのではないかと思います。*2
5歳児の1ヶ月は、人生(5年間)の1.6%。60歳の人の人生の1年にあたります。
それほど濃密な日々を過ごしているよつばですから、日を追うごとに「よりクリアな世界に」見えていき、そして、よつばが見る世界が次第に鮮やかになっていくように、読者もまたよつばの目(視点)を通じて「かつて自身も経験した」世界の変貌を疑似体験している、という推測もあながち的外れではないかな、と思います。
もちろん作者がそこまで意図して描いているかどうかは不明ですが、逆にもしそうだとしたら、『よつばと!』という漫画に更なる厚みと奥行きが増すような気がします。

*1:元記事は『ユリイカ』2008年6月号の特集「マンガ批評の新展開」の記事の一つ、泉信行「キャラたち/キャラクターたち」です。

*2:「登場人物によって見る(見える)世界が違う」というのは、某妖怪探偵小説を既読の方は共感していただけるかと思います。