『ハヤテのごとく!』で考えるレンタルビデオの延滞料金
- 作者: 畑健二郎
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2005/08/08
- メディア: コミック
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未返却のビデオが全部で13本…
延滞料が158万円程になってんだけど…
(『ハヤテのごとく! 3巻』p52より)
1.158万円という数字の根拠
ビデオ13本が未返却で158万円という延滞金は、一見すると法外な数字に思われるかもしれません。しかし、試しに近所のレンタル店を基準*1として、DVD1本につき7泊8日で400円、延滞料金1日につき260円で計算してみますと、
158万円÷(260×13)≒467
となりますから、13本を1年と100日あまり未返却だとこういう数字になってしまいます*2。ですから割りとリアルな数字だと思います。
2.消費者保護法との関係
もっとも、確かに未返却は問題ですが、だからといってどこぞのサラ金もびっくりの暴利を認めるわけにもいかないでしょう(利息制限法とかの抜け道として使われかねません)。こうしたトラブルを避けるため、2001年に施行された消費者保護法では、第9条二号において次のように定めています。
消費者保護法第9条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分
何を言ってるのかよく分からないかもしれませんが(苦笑)、要は年14.6パーセントを超える損害賠償を請求できないという意味です。ここで、利率の元になる元金が何かが問題になりますが、普通に7泊8日借りたときの400円を基準にしたのでは安過ぎなので(笑)、未返却となっているレンタルビデオの市場販売価格が基本となると一般に理解されています(参考:http://www.chugoku.meti.go.jp/consumer/shoukei/qanda/h2001.htm)。
そうしますと、仮に1本あたりのビデオの価格を1万円だったとしても13本で13万円なのに加えて、利率14.6%なので1460円×13本=18980円が違約金として認められるのみで、これを超える部分については無効ということになります(もっとも、これでも十分高額だと思いますけどね)。
3.消滅時効との関係
民法第174条 次に掲げる債権は、1年間行使しないときは、消滅する。
五 動産の損料に係る債権
したがいまして、ワタルの店であるレンタルビデオタチバナ新宿本店が延滞金に関して、請求や催告などの時効を中断もしくは停止させる手段を何ら講じていない場合には、この延滞金は時効によって消滅している可能性があります。
【追記】ただし、貸主であるレンタル店にはビデオを返すよう請求する権利がありますし、返してもらえなかったことによる損害賠償を請求する権利もあります。そうした一般的な債権の消滅時効は10年です(民法第167条)。もちろん、賠償金は上述の消費者保護法の範囲内に限定されますが、延滞金とかではなくて普通に損害賠償請求ができることは付言しておきます。
結論
以上のことから、延滞料158万円程については消費者保護法9条2号の範囲でのみ有効で、それを超過する大部分は無効ということになります。また、ワタルの驚きようからして、ひょっとしたら消滅時効にかかっちゃってるかもしれませんがその点は不明です。
158万円の支払という当初の状況からすれば事態はかなり好転したと思われるかもしれません。それでも、冷静に考えれば延滞金が高額なのは間違いありません(ぶっちゃけ普通に買った方がはるかに安上がり)。消滅時効にしたって、そんなのレンタル店が裁判所に訴訟を提起すれば簡単に認められますし、そうなれば時効による消滅など期待するだけ無駄でしょう。ましてや夜逃げなど論外です。当たり前のことですが、借りたものは期限内にキチンと返却しましょうね(笑)。
オマケ
他人の顔写真を使っての会員登録
ハヤテの父親である綾崎瞬はハヤテの顔写真を使って会員登録をしています(p51〜52より)。何故こんなことがまかり通ったのかは謎(普通は顔と写真を見比べるでしょう)ですが、これは刑法第159条の私文書偽造罪に当たる可能性があります。
第三者弁済契約の有効性
親の債務を子供が払わなければならない義務はありません。親に延滞金があろうがなかろうがハヤテはハヤテで無視して全然構いません。構いませんが、親の借金をあえて代わりに支払うのもそれはそれでありです。本件では「とりあえずテープを弁償する方向で決着しました………分割で……」(p52より)ということなので、具体的な内容は分かりませんが第三者のための弁済としての契約は基本的には有効です。
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ただ、本件では上述のように延滞金が消費者保護法で定められている範囲を超過しています。そうした無効な範囲があることを知らないまま契約が結ばれているのであれば、その契約は錯誤による無効(民法第95条)ということになり得ます。
また、綾崎ハヤテは16歳の未成年*3です。未成年者が行える法律行為は民法第5条で定めれらていますが、そこでは原則として、単に権利を得、または義務を免れる法律行為を行うことが認められているのみで、このような義務を負う法律行為を親などの法定代理人の同意なく単独で行うことは認められていません。したがいまして、未成年を理由とする取り消しの対象となります(民法第5条2項)。
以上ですが、ご意見その他異論反論等ございましたらお気軽にコメント等くださいませ。ばしばし修正しますので(笑)。『ハヤテのごとく!』は生活臭のするギャグ漫画なので、真面目に考えちゃうと法律的に首を傾げる点が他にもないではないのですが、それはそれこれはこれ、です。本記事みたいなのは法律厨による思いつきのネタとしてご理解いただければ幸いです(ペコリ)。
【参考資料】『消費者契約法の解説 三訂版』(山口康夫/一橋出版)
- 作者: 山口康夫
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