生活保護費からの市による損害賠償金の差し引きについて

 原則として法律関連の記事を書くときにはネタ記事にするようにしているのですが、今回は何も思いつかなかったので手短に。
asahi.com:生活保護費から賠償金差し引く セクハラ敗訴の羽曳野市 - 社会[↑B]

 生活保護の申請をした女性(44)への職員のセクハラ行為をめぐる訴訟で敗訴し、110万円の損害賠償を支払った大阪府羽曳野市が、訴訟費用を除いて女性の手元に残った約24万円を「収入」とみなして生活保護費から差し引いていたことがわかった。

 そもそも損害賠償金を収入とみなしてよいのかという論点もありますが、まあ現実に金銭が動く以上、収入とみなすのにもそれなりの説得力はあると思うので、そこはひとまず良しとしましょう。ただ、仮にそうだとしても……。

民法第509条 債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。

 この条文の趣旨は、(1)被害者に対する現実の弁済の確保(「薬代は現金で」)、(2)不法行為の誘発防止(腹いせ防止)、の2点にあるとされています。
 で、今回の場合は慰謝料と生活保護費との”差し引き”と表現されていますが、事実上相殺と変わらないと思いますし、民法第509条の脱法行為*1と認定されても仕方がないように思うのですが……。市側がずいぶん危ない橋を渡っているように私には思えてなりません。

*1:民法は私人間の法律関係について定めた法律なので、今回のような行政の行為について直接適用されることはありません。なので、もしこの女性が市を訴えるとしたら民法509条の類推適用を主張することになると思われますので、その点についてはご留意ください。