森博嗣『キラレ×キラレ』講談社ノベルス

キラレ×キラレ (講談社ノベルス)

キラレ×キラレ (講談社ノベルス)

森博嗣Xシリーズ第2弾です。
サブタイトルはCutthroat。切り裂き魔という意味ですが、アイヨシ的にはこちらの作品かな?
カットスロート 上 新装版 創元推理文庫 M ス 9-5

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「この頃、話題になっている、電車の切り裂き魔なんだけれど――」
三十代女性が満員電車の車内で、ナイフのようなもので襲われる事件が連続する。
《探偵》鷹知祐一朗と小川令子は 被害者が同じクリニックに通っている事実をつきとめるが、その矢先、新たな切り裂き魔事件が発生し、さらには殺人事件へと――。

(以下、「あらすじ以外はネタバレです」という作者の言に従いネタバレ感想です)
 コメントに困る作品です。
 これまでの森作品では良くも悪くも「森博嗣らしさ」があったのですが、今作ではほとんど見受けられませんでした。もちろん登場人物の掛け合いは面白かったのですが(今回は椙田もけっこう登場します)、ミステリィを期待して読むと肩透かしを食らうかもしれません。
 そして今作の最大の特徴は、(以下ネタバレにつき反転)「探偵役の推理による謎解き」が存在しなかったことです。(ここまで)これは森博嗣作品、特にシリーズものでは初めてかもしれません。
 前作の感想で「このシリーズが今後どういう方向性を進むのか、次巻が楽しみな一作である」と言いましたが、おぼろげながら見えてきた気がします。Xシリーズは「森博嗣作品は小難しくてちょっと・・・」という人にオススメだと前回書きましたが、前作を読んで「あ、これならだいじょうぶそう」と思った人なら今作も満足できると思います。
 とはいうもののフジモリはこってり味に慣れすぎてしまったようで、早くGシリーズの再開を望む次第です。
 ・・・とメタな感想はここまでにしまして(笑)、作品そのものへの感想を。
 今回取り上げる題材は「切り裂き魔」。しかも犯行の舞台は「満員電車の中」。作中で小川が言っていますが、満員電車の中というのは人が沢山いても基本的に孤独な状況なわけで、普段は他人を(あるいは周りに人がいることを)あまり意識しません。
 しかし「満員電車での切り裂き事件」というシチュエーションによって、それまでの考えをがらりと変えてしまいます。
 いかに私たちの「安全だと思われる日常」が危ういものか、そんなことを考えさせられる作品でした。
 ちなみに、フジモリが作中で最も共感したのはこのセリフでした。

「一日に十分や二十分ならば許せるけれど、毎日一時間も二時間も電車に乗る人だっているんだよ。往復で三時間とか四時間とかだってざらなんだから。そうなっちゃうと、一日って活動時間、せいぜい十八時間ぐらいだから、約六分の一も電車に乗って過ごしているわけじゃない。それって、人生でいったら、十年間くらい電車の中ってことになるでしょう?殺人を犯して、監獄に入れられても、十年ぐらいで出てこられるのに」(p29)

 話変わって、(以下ネタバレ)タイトルは『キラレ×キラレ』。切られる被害者。サブタイトルは『Cutthroat』。切る加害者。タイトルに物語の重要な核をさらりと書くセンスは相変わらず流石だなぁ、と思いました。(ここまで)
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