中村九郎の読みやすさ・読みにくさ

中村九郎作品の読みやすさについて - Bダッシュが消えた日に 
 先の四天王の例にならえば、勇者にもそれぞれのパラメータがありますから、やはり相性というのはあると思います。
 私の順番を再掲しますと、アリフレロ>ロクメン>黒白>樹海です。
 結局は主観の問題だと思いますがそれでも一応考えてみますと、この4作品は、発行順に主人公と現実との距離感が徐々に縮まっています。黒白は現実世界とゲーム世界と微熱空間という三層構造になっていて主人公と現実との間には明らかに距離が置かれています。ロクメンは冒頭でぼくは時々、別の世界を覗きこむようにしてしか、自分自身の状況を確認できなくなるとあるように二層構造がほのめかされています。アリフレロになると、主人公と物語という世界の語り手である千里眼が最初は乖離している二層構造ですが、途中でこれは一体となります。で、樹海だと現実と主人公の現実感は一応一致しています。こうしたところは読みの難度に少なからず影響を与えていると思います。
 また登場人物の造形として、樹海の場合、裏表紙にツンデレ・罵倒系・みだらなと説明があるように、最近のラノベにありがちな属性化を図ろうとした形跡があります。一応読みやすいものにしようと頑張ったことの表れだと思います(もっとも、成功しているとは思いませんが)。この点、他の3作に登場する人物の性格はとてもそんな属性では説明できません。特に、黒白の加藤少年とメイジはひどいものです。でも、それが悪いことだとは思ってません。本来、一人の人間の有する情報量とはとても膨大なもので、その性格を評価するにも幾多の面を考慮して付き合うのが普通です。だから、ちょっとくらいイッちゃってて行動が読めなくても、まあいいんじゃないですか(笑)。
 で、まとめますと、樹海は一応主人公と現実との距離が安定しているのである程度読める。黒白は現実感には乏しいけど設定自体は明らかになってるしゲームクリアという筋立て自体はあるので一応追える。ロクメンは夢と現実がごっちゃで判別不能。アリフレロはストーリーが壊滅的に意味不明。といった認識です。
 もっとも、ここでどんな順番を付けようが、他の作家と比べればダントツで読みにくいのは間違いないんですけどね(笑)。ちょっとした暗号文を読むような楽しみも覚えてたりします。
 ちなみに、読んだ順番はロクメン→樹海→黒白→アリフレロです。で、読みの難易度とは別の私的評価としては、ロクメン>アリフレロ≧樹海>黒白です。ロクメンは何だか分からないけど傑作だと思います。よく分からないのですが、マジックリアリズムの極北、というそれっぽい言葉でここでは逃げさせていただきます。アリフレロは意味不明だけど中村テイストに満ちてて、樹海は逆に個性は薄まってるけど読みやすくなってます。どちらを採るかで悩みますが、やはり個性を優先して評価したいです。黒白は、面白くないことはないのですが、粗も目立つので厳し目に評価せざるを得ません。ただでさえ意味不明の作風なのですから、しっかりするところはしっかりしてもらわないと困ります。
 ……それにしても、一体何が私に中村九郎についてここまで語らせるのでしょうか?(笑)
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