『棺担ぎのクロ。~懐中旅話~』(きゆづきさとこ/まんがタイムKRコミックス)

棺担ぎのクロ。~懐中旅話~ (1) (まんがタイムKRコミックス)

棺担ぎのクロ。~懐中旅話~ (1) (まんがタイムKRコミックス)

 ここのところミステリばかりだったので目先を変えて漫画レビューです。来月には待望の第2巻が出るということで、今の内に紹介しておきたいと思います。
 『棺担ぎのクロ』は、大きな棺を背負った旅人”クロ”と人語を話すこうもりの”セン”と、不思議な能力を持った子供”ニジュク”と”サンジュ”の旅の物語です。黒枠の中で語られる独特の雰囲気の童話調の4コマ漫画です。4コマ漫画ですが、ちゃんとストーリーがあります。それも、いわゆるサザエさん時空のような物語じゃなくて、普通のストーリー漫画と同様の物語性のある4コマ漫画です。
 ストーリー漫画でありながら何故4コマ漫画のスタイルをとっているのか? もちろん、掲載雑誌の関係もあります(『まんがタイムきらら』という4コマ漫画雑誌で連載してます)。でもそれだけじゃないでしょう。起承転結という4コマ漫画特有の4拍子的な一定のリズムはどこか懐かしくまるで子守唄みたいで、童話調の雰囲気を醸し出すことに一役買ってるように思います。
 また、こうした一定のリズムは作中の人物たちにおいて平等に時を刻ませます。1巻の時点ではクロの旅の目的はハッキリとは分からないのですが、病というべきか呪いというべきか、そうしたものによる命の危険があって、それを何とかするために旅をしているものと推測されます。クロの旅は黒い外枠のとおりに死をイメージさせるものではありますが、その目的地にはひょっとしたら”生”という希望があるかもしれません。対して、図らずも旅の道連れになったニジュクとサンジュは元気いっぱいの子供で、生命力に満ちています。二人は”はかせ”を探すためにクロと一緒に旅をしています。しかし、”はかせ”は既にこの世にはいません。二人の子供にとって、クロとの旅は”死”とは何かを理解するための旅でもあります。クロと二人の子供にとって、残されている時間は全然違いますが、それでも時間は同じリズムで刻まれていきます。それがときには優しくて、ときにはとても残酷です。一定のリズムによって物語が進んでいく4コマ漫画特有のコマ割によって、筒井康隆の『虚人たち(書評)』における「原稿用紙1枚が1分」ほど極端で偏執的なものではありませんが、普通だったら表現しないようなシーン、あるいは”間”といったものがときどき表現されることになります。それもまたとても面白いです。
 4コマ漫画としてのストイックなコマ割は、旅人たちの日常を淡々と紡いでいきます。嬉しいことがあっても悲しいことがあっても、コマの大きさは変わりません。だからこそ、何でもないことがとても大切に思えてきます。一コマ一コマの価値は読者が決めることになりますから、そこで読後の余韻が独特のものになるんだと思います。
 一コマ一コマ、線の一本一本まで丁寧に描かれていて、たまにあるカラーページはとても綺麗ですし、オススメ度は高いです。問題は、1巻から2巻の間が1年以上も空いているという刊行ペースの圧倒的な遅さですね。クオリティの高さゆえにやむをえないことかもしれませんが、何とか頑張って欲しいです。
 ちなみに本書は、黒い外枠といいセピア調の表紙といい、ちょっと変わった独特の色づかいをしています。こうした色彩などに興味のある方には、同じ作者の『GA-芸術科アートデザインクラス』という漫画がオススメです。こっちは『棺担ぎのクロ』とは違って、明るく楽しい4コマ漫画です。ときどき真剣な話もありますが、そこもまた面白いです。平凡な例えになりますが、『美術版あずまんが大王』といった感じです。主要キャラクタの性格がときに色彩に例えられたりしますし、技法による具体的な表現効果の違いなど、こっち方面にはまったく疎い私としてはとても勉強になりました。いや、そんな頭でっかちな読み方しなくても普通に面白いですけどね(笑)。
【関連】
『棺担ぎのクロ。~懐中旅話~ 2』(きゆづきさとこ/まんがタイムKRコミックス) - 三軒茶屋 別館
『棺担ぎのクロ。~懐中旅話~ 3』(きゆづきさとこ/まんがタイムKRコミックス) - 三軒茶屋 別館
GA 芸術科アートデザインクラス (1) (まんがタイムKRコミックス)

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