有川浩『空の中』メディアワークス

空の中

空の中

 200X年、高度2万メートルで起こった二度の航空機事故。
 事故原因を調査している春名高巳は、2度目の航空機事故の生き残りである武田光稀と接触した。光稀の導きで高巳は空の中である「物体」と遭遇する。
 一方。高知の片田舎。父親を航空機事故で失った少年、斉木瞬は浜辺である物体を拾う。
 重なり合う二つの「秘密」。
 秘密に関わるすべての人が集ったその場所で、最後に救われるのは誰か…。

 有川浩版「ウルトラQ」です(断言)
 空に浮かぶ謎の物体をめぐり、その「一部」を拾った子供たちと「本体」に遭遇した大人たちの話が交互に繰り広げられます。
 春名高巳は「スカイドン」と言ってましたが、イメージ的には「バルンガ」に近いです。
 「ウルトラQ」は怪獣に対し、生身の人間たちが知識や技術を駆使し退治、ないし撤退させていくという物語です。
 本作もバルンガに対し、航空技術者の高巳とF15パイロットの光稀、そしてその対策委員会という「組織」が接触していくのですが、そのコンタクト自体が非常にスリリングであり、ウソをウソと思わせない作者の筆力により、読者はぐいぐいとひきつけられます。
 派手なドンパチが無いぶん、作品自体地味な印象は受けますが、怪獣もの、恋愛もの、青春ものとこれでもかというぐらいエンターテイメントが詰まった作品です。
 読後感も非常に爽やかであり、子供のころ特撮ものを見て血沸き肉踊らせた人なら無条件でお勧めできる良作です。
 また既読者は感じているかもしれませんが、この作品はいわゆる「セカイ系」と呼ばれる作品群に対しひとつの解を与える「反セカイ系」の旗手となるだけのポテンシャルを秘めていると思います。
 詳しくは本館のネタバレ書評で語りたいと思いますが、そういう点で興味ある方も是非ご一読を。

 ちなみに、高巳と光稀の「その後」の話を描いた短編、「ファイターパイロットの君」は1月末に角川書店から出版される短編集『クジラの彼』に収録されるそうです。ちなみに表題作は『海の底』のスピンアウト作品。買わねば。