映画『それでもボクはやってない』感想

 映画『それでもボクはやってない』(公式サイト)を観てきました。
 痴漢冤罪事件、ひいては裁判そのものをテーマにした映画なのですが、とても面白かったです。
 痴漢冤罪問題については、実際に被告人となった方の著書(『ぼくは痴漢じゃない!―冤罪事件643日の記録』[鈴木健夫/新潮文庫])を読んだこともありますし、知識としては知ってました。それでもやはりこうして映像になるとインパクトがありますし、難しい言葉の意味なんかも生きたものとして頭にスラスラ入ってきます。143分という上映時間は長いなぁ、と観る前には思ってましたが、実際に観終わった後では、この時間内でよくぞここまで中身の濃いものができたなぁ、という満足感・お得感でいっぱいでした。
 パンフレットでの周防正行監督のインタビューでもたびたび”リアル”って言葉が出てくるのですが、その言葉通り、実にリアルな作りになってると思います。被告人となってる青年が一応この映画の主人公ではありますが、実際に監督が撮ろうとしてものは裁判そのもので、そのことがスクリーンからひしひしと伝わってきます。とても真摯で真面目で丁寧だと感じました。真面目なんですが、ユーモアもちゃんとあって、とても重いテーマであるにもかかわらず何度か笑っちゃう場面も用意されています。そういうのも含めて、とてもしっかりした映画だと思います。監督がインタビューで「エンターテイメントとして面白がらせようという意識は全くなくて」と述べられている通り、物語=裁判はリアルなスケジュールに沿った展開して、そのたびに法廷ものとしてはベタなエピソードも挿入されます。ホントに奇をてらったところがなくて、ですからラストだって意外でも何でもないはずなのですが、それでもドキドキしてしまいました。観て良かったです。
 ちなみに、この映画のパンフレットは、監督や主要キャストのインタビューの他にも逮捕から判決まで丁度1年の流れに、Q&A形式で裁判制度や映画のシーンについての説明などがされていて、600円という値段以上の価値があると思うのでそちらもオススメです。ただし、一部ネタバレ箇所もありますので、映画を観終わってからの購入を推奨します。映画自体はとても分かりやすいものなので事前に説明・予備知識がなくとも問題なく楽しめますが、やっぱり事後に補強した方が知識として定着し易いですからね。
 あと、これは本編とは何の関係もない雑感ですが、パソコンで検索をするシーンがあったのですが、そこでgoogleでもYahoo!でもないLookingっていう架空(?)の検索エンジンが使われてたのが何気に面白かったです(笑)。
 なお、痴漢事件じゃないですが日本の裁判を題材にしたミステリとしては何と言っても大岡昇平『事件(書評)』が一押しです。あと、高木彬光の『破戒裁判』も古典ですが、物語が全て裁判の法廷内で繰り広げられるという趣向が実に面白くて、こちらもやはりオススメです。興味のある方は是非。

ぼくは痴漢じゃない!―冤罪事件643日の記録 (新潮文庫)

ぼくは痴漢じゃない!―冤罪事件643日の記録 (新潮文庫)

破戒裁判 新装版  高木彬光コレクション (光文社文庫)

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講談社BOOK倶楽部―本― 法月綸太郎インタビュー「ホーム」と「アウェー」
 今月末に刊行される法月綸太郎法月綸太郎ミステリー塾(日本編) 名探偵はなぜ時代から逃れられないのか』『同(海外編) 複雑な殺人芸術』についてのインタビューです。