森博嗣『λに歯がない』講談社ノベルス

 密室状態の研究所で発見された身元不明の4人の銃殺体。
 それぞれのポケットには「λ(ラムダ)に歯がない」と記されたカード。
 そして死体には……歯がなかった。
 4人の被害者の関係性、「φ(ファイ)」からはじまる一連の事件との関連、犯人の脱出経路──すべて不明。
 事件を推理する西之園萌絵は、自ら封印していた過去と対峙することになる…。

 1作目「φは壊れたね」書評内で話したように、Gシリーズは王道、直球なストーリィ、トリックを意識していると思われるが、本作も直球、しかも剛速球な話だった。
 輻輳する謎に西之園萌絵をはじめとするいつものメンバが向かっていくのだが、今回は萌絵の成長が形となって表われていたと思う。
 以前S&Mシリーズを総評したときに語ったが、萌絵のミステリィ好きは「両親の死の記憶を封印し、死に対し現実感を起こさせない」、そして「両親の後を追って死を望む」という人格から起因していた。そしてその人格は萌絵の中心にある存在だった。しかし「有限と微小のパン」での真賀田四季との対話でその人格が消滅、萌絵は開放された。その後も萌絵は残された「好奇心」という人格から様々な事件に首を突っ込むが、今回4人の死体を見た後に犀川に語ったセリフ、

「亡くなった人たちが、可哀相でした」(p102)

 に象徴されるとおり、「死」について考えるようになった。いや、考えることができるようになったのだ。
 これまでの萌絵は、両親の「死」について考えないようにするあまり、思考や感情にプロテクトをかけていた。それが故に他人の「死」に関しても記号的に扱い、事件に「興味半分で」、いや「興味全部で」首を突っ込んでいたのである。しかし今回は被害者の「死」に対し想像力を働かせている。
 
 今作は密室、萌絵の成長、シリーズを通した謎など読みどころが沢山あり、また犀川と萌絵が「死」について語る哲学的な会話などは過去のシリーズを髣髴とさせる。
 シリーズ中の1作としても、単品としても非常に楽しめた作品であった。


 …てなことをフジモリと御影が語るのが今回の書評になりそうです。あとプチサプライズあり。
 まあ、書評のアップはいつもながら、たけいの頑張りに期待しましょう。皆様も温かいご声援をお願いします(笑)。

λに歯がない (講談社ノベルス)

λに歯がない (講談社ノベルス)