『サンタクロースを見た』(電撃コラボレーション/電撃MAGAZINE文庫)

 Merry Christmas!*1 というわけで、今回はクリスマスにちなんだ本として『サンタクロースを見た』の紹介をしましょう。 
 本書は、雑誌「電撃文庫 MAGAZINE 2012年01月号」付録の文庫本です*2。雑誌のお値段は税込720円ですが、逆に本書の付録として雑誌が付いている、と考えてもおかしくないお値段と内容だと思います*3。それくらい面白くてオススメです。本書のコンセプトは、

・1ST MISSION この文章から始まる物語を紡ぎ出せ!
 THE OPENING SENTENCE:「サンタクロースを見た」
・2ND MISSION 物語に5つのキーワードを使用せよ!
 KEY WORD:小学生/魔法/ツンデレ/ゲーム/たらこ

というもので、”サンタクロースを見た。”の一文から始まる5つの物語が収録されています。それぞれの作品が独立しながらもそこはかとなく関連し合うことで、同じ街と同じ日を舞台に、様々なサンタクロースと様々なクリスマスが描き出されています。恋愛あり倒叙ミステリありコンゲームありファンタジーあり。それでいて、涙あり笑いあり感動ありのお買い得コラボレーションです。以下、各話ごとの簡単な紹介と雑感を。

恋愛と幼女の分岐点/蒼山サグ

 クリスマスといえば、家族みんなが一緒に過ごす日でもあり、恋人が一夜を一緒に過ごす日でもあります。そんな二つのクリスマスのあわい(間)を描く淡い物語です。……それは確かにそのとおりで、作品紹介として別に嘘を述べてるつもりはありません。が、そこは、”まったく、小学生って最高だな。”とかいっちゃう作者の作品です。本作も、”まったく、小学生には適わないぜ。”(p25より)や”――小学生の笑顔って、魔法みたいだ。”(p31より)といった名言連発です。いや、ホントのホントにいいお話なんですけどね(苦笑)。

とある童貞のクリスマスイブ/沖田雅

 クリスマスの風物詩であるラブホ難民(しかも童貞)のお話、というド直球のクリスマスストーリーです。……が、酷い、酷すぎます(笑)。それでいてラブコメとして見事に着地しています。何気に聖夜と性夜の駆け引きだったりしますが、やっぱりクリスマスは女の子のためのものですよね。

ワルキューレの奇行/竹宮ゆゆ子

 こんなにも仲がいいのに、こんなにも別次元を生きている。正常と異常の境目は、こんなにも深く、暗く、果てがない。
(本書p156より)

 サンタクロース目がけて魔貫光殺砲のポーズをかます戦乙女のサンタ殺し。……って、ホントにサンタを殺してるわけじゃないです。でも、サンタ殺しです。二話目がなまじ真っ当なラブコメ・クリスマスストーリーしてるだけに、本作の痛々しさがブーストされています。コラボレーションならではの醍醐味ではあります。いかにコメやパロで誤魔化そうとしても切なさの疾走が止まりません。純愛ですが、それでいて、ある意味二話目以上に「性夜」の物語です。携帯は盗めても人の心は盗めない。そんな哀しい道化めいた泥棒の一夜限りの倒叙ミステリです。

クリスマスM&A土橋真二郎

 家族や恋人が楽しいひと時を過ごしているその裏では、クリスマス商戦という激しいバトルが展開されています。そんなクリスマス商戦をM&Aのゲームに落とし込んだのが本作で行われるゲームの設定です。クリスマスにちなみXゲームと名付けられたこのゲームは、様々な情報がデータ化されているこの街において、仮想マネーと仮想資産に基づいて取引を行って最終的に最も資産を増やしたものが勝利を収めるというものです。プレイヤーがイベントに参加することで副次的にクリスマスを盛り上げることを目的とするゲームですが、悪用されればこの街のクリスマスが崩壊してしまいます。そこで、ゲームが得意で、かつ、クリスマスの予定が空いている(笑)斉藤に白羽の矢が立ちます。どのような施設が儲かるのか? どうすれば資産が増えるのか? それは本作を読んでのお楽しみですが、当然ながらクリスマスならではの要素が存分に活かされています。手に汗握るマネーゲームとクリスマスらしいオチが楽しめます*4

勇者の帰還/志村一矢

 聖者ならぬ勇者が街にやって来るのを待つお話です。いい子にしてれば、サンタクロースがプレゼントを持ってやってくる、それが子どもにとってのサンタクロースの定番です。つまり、いい子じゃなくて、いい子であり続けることに意義があるわけです。本作についていえば、勇気を持ち続けること、そして、信じ続けること。それは必ずしも報われるとは限りません。ですが、そこはクリスマスですからね。コラボレーションの最後を飾るに相応しい作品です。



 本書はあくまで雑誌の付録です。興味のある方は早めの購入をオススメしておきます。

*1:正確には24日の日没から、らしいですが(by クリスマス - Wikipedia)、ぶっちゃけどうでもいいです(笑)。

*2:イラスト:支倉十。表紙カバー絵が見たい人は→サンタクロースを見た―電撃コラボレーション (電撃文庫MAGAZINE文庫) - 読書メーター

*3:他に、『境界線上のホライゾン』特製カレンダー2012も付いてます。

*4:ちなみに、p191の”前田”というのは斉藤の誤字ですね。