尹仁完・金宣希『WESTWOOD VIBRATO(ウエストウッドビブラート)』小学館

WESTWOOD VIBRATO (1) (サンデーGXコミックス)

WESTWOOD VIBRATO (1) (サンデーGXコミックス)

新暗行御史』『DEFENSE DEVIL』などの原作をしている尹仁完と女流作画家・金宣希による、サンデーGXにて連載している「楽器と音楽」の物語です。
南アフリカケープタウンにあるお店、「WESTWOOD VIBRATO」。そこでは、義足の楽器修理技師コーネリアが、神業のような腕前で修復不可能といわれた数々の楽器を修理している。
今日もまた、新たな依頼者が彼女の元を訪れる。。。
というお話です。
「音楽」を主題にしたマンガは数多くありますが、楽器修理工という職業にフォーカスを当てた物語と言うのは非常に興味深かったので手にとって見ました。基本的に1話完結で読みやすく、また楽器や音楽などのちょっとした薀蓄もあり非常に楽しめました。
個人的な感想としては、「音楽」を題材とした『美味しんぼ』かなぁ、と思ってみたり。楽器の修理を通じて依頼者の心のわだかまりなど、様々な問題を解決していく様は、構成としてはベタではありますが、だからこそ王道の安心感を味わうことが出来ます。
各話で取り上げている楽器はさまざま。そしてその楽器と楽器の所持者にはそれぞれ楽器にまつわる「エピソード」と「曲」があります。
例えば、第1話「Misty」では「SBA」というサックスと、JAZZナンバー「ミスティ」が物語の軸となっています。
*1
その歌詞と、曲に込められたエピソードも相俟って、単なるお涙頂戴の物語としてだけではなく、音楽が持つ「力」について読者に印象付けます。
実際、収録されている4話のうち、3話が「戦争」「内戦」など「争い」にかかわるエピソードであり、かかわる曲もまた、「行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って」「イマジン」などそれこそベタなものです。
例えば第3話「行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って」では、同名の曲が物語の重要な役割を担います。。

ヴェルディの歌劇「ナブッコ」第3幕で歌われる有名な曲です。

旧約聖書にある紀元前6世紀のバビロニアの暴君ネブガドネザル王(イタリア語でナブッコ)によるヘブライ人たちの「バビロニア幽囚」を題材としたもので、ヴェルディが真の成功を得た最初のオペラ。「予言」と題されたこのオペラの、第3幕第2場で歌われ、エウフラテス川岸で、奴隷として強制労働をさせられているヘブライ人たちが、故郷に帰れるように神に祈る合唱です。オーストリアの圧制から独立しようとの機運にあったイタリアの民衆の士気を鼓舞した名曲。このオペラが初演されたとき、お客さんが帰りの道すがらこのメロディを口ずさみながら帰宅したことでも有名です。
(カワイ出版「リーダーシャッツ21 混声合唱/世界のうた篇」P103)

この曲とその背景にあるの物語が、新たな「独立」の物語に変化します。
はたまた、別の回では、戦争を「楽器」の力で止めようとします。
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確かに、ベタでお涙頂戴の物語かもしれません。
しかし、だからこそ、「音楽の力によって争いごとは止む」という、ケーキにハチミツをかけたような甘ったるい幻想が本当は存在するのではないか?という奇跡を一瞬ではあるが読者に信じさせる、そんな不思議な熱量を持った物語だと思います。
「音楽に関するマンガ」好きな方なら一読して損は無い一冊かと思います。

*1:P54

*2:P134