『うみねこ』のヘンペルのカラスと荀イクの空の器
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『うみねこのなく頃に』Episode3では、島の中にいる犯人足りうる人物の数を巡り、ヘンペルのカラス(参考:ヘンペルのカラス - Wikipedia)という対偶論法が出てきます。それは作中において2つの箱とクッキーの例えで説明されています*1。
例えば、ここに2つの箱があり、片方はアタリで中にクッキーがあり、もう片方はハズレで空っぽだとする。
この時、”クッキーが入っている=アタリ”となり、同時に”アタリでない=クッキーが入っていない”ともなるわけだ。
この関係にある時、後者を対偶と呼ぶ…。
(Episode3 『19人目の可能性』より)
ヘンペルのカラスの論法はさておくとして(笑)、クッキーの例で考えるなら、アタリの箱を知るだけであれば、前提となっている条件が信用できるものである限り、片方を空けるのみでいいというわけです。つまり、そこには”信用”という大前提があるわけです。
なので、信用がない限り、いくら箱を開けて中身が確認できたとしても、求められている答えを出すことができない場合があります。それが、『三国志』において曹操の軍師として活躍したことで知られる荀イク(荀イク - Wikipedia)のエピソードです。
曹操の魏公就位を巡る確執の果ての死。荀イクの死については謎が多いとされていますが、正史によりますと、曹操直々の封がされた器*2を贈られて、開けてみたら中が空っぽだったことから自殺したとされています*3。
なぜ空の器=自殺なのか。受け取り方は様々でしょうが、私がその昔(10年以上前?)に何かの本で読んだか、あるいは友人たちと話してた解釈として以下のようなものが記憶に残っています*4。
曹操から器の中身について訊ねられたときに、「空っぽだった」と答えれば「確かに中に料理を入れたはずだ」と咎められ、「ありがとうございました」と答えれば「空っぽだったはずなのになぜ礼をいうのか」と咎められ、いずれにしても不忠を問われることになる。つまりは遠回しに自殺を命ずるものとして送られたのだ、というような解釈です。
まあ、単純に空の器=不要・用済みという解釈でもいいのかもしれませんが、私としては上記のロジカルな解釈がとても面白いと思ったので印象に残っています。
以上、論理では知ることができない箱の中身もある、という話でした(オチなし)。
*1:ヘンペルのカラスの例としてこのクッキーと箱の例が正しいのかどうか、論理学に明るくない私には正直疑問です。ググると「これはおかしいだろ」って意見も出てきますし。もし何か誤りがあるのでしたら、どなたか分かりやすく丁寧にご教示いただければ幸いです。
*2:器の他に、箱や壺だとする説もあるみたいです。
*3:北方謙三『三国志読本―北方三国志〈別巻〉』より。ちなみに、北方謙三版三国志では荀イクの死について正史とは異なるエピソードが用いられています。一方、吉川英治版三国志では正史と同じく空の器が曹操から送られています。
*4:もしも、どなたか文献をご存知の方がおられましたらご教示いただければ幸いです。