[ウソ書評]乙一『ジョジョの奇妙な冒険 テュルプ博士の解剖学講義』集英社


 前作『“The Book”jojo's bizarre adventure 4th another day』から間髪を入れずに刊行。ファンとしては嬉しい限りです。

 杜王町に偶然引っ越してきた若い母親と、9歳になる息子「薫」。
 薫には誰にも話していない、自分の体に秘めた「謎」があった。その「謎」を巡り何者かにつけ狙われる薫。
 そんななか薫は、特徴的な髪型と不思議な能力を持つ高校生、東方仗助と出会う・・・。

 『The Book』が「黒乙一」であるならば、『テュルプ博士の解剖学講義』は「白乙一」。『The Book』の主人公・蓮見琢馬も『テュルプ〜』の主人公・薫も「他人とは異なる能力(=スタンド)」を持ちながらも誰にも相談できない孤独な環境ですが、蓮見琢馬にとって東方仗助は「自身の目的を妨げる障害」、薫にとって東方仗助は「自身の意志を貫く支えになる目標」という大きな違いがあります。著者インタビューによれば「あくまでも彼は話の周辺に位置しており、東方仗助は動かない」とのことでしたが、
 薫は、「物体を体に収納できる」というスタンドを持っています。そして彼の体に「収納されている」あるものを巡り、次々と刺客が薫に襲いかかります。薫の苦悩や襲ってくる敵の不気味さは「乙一節」が遺憾なく発揮されていますし、カメユーデパート、オーソン、不細工な鼻の不良など、原作を知っているとニヤリとできる小ネタも満載です。(なにより、薫が引っ越してきたマンションは「とある事情」により若い女性が恋人と共に行方不明になっています!)
 『The Book』との大きな違いは「母への思い」でしょう。蓮見琢馬も薫も母への思いがその行動への原動力となっていますが、蓮見琢馬は復讐、薫は母を「守る」ために戦います。小説後半でタイトルにも付けられたレンブラントの同名の絵画「テュルプ博士の解剖学講義」さながらに、敵に捕らえられ「解剖」される薫。(蛇足ですが、とある乙一の小説に登場する「相手の体を切り刻んでも苦痛を与えない」能力をもつラスボスを登場させる演出はお見事だと思います)
 絶体絶命のピンチの中、薫の母への「思い」、そして薫に対する母の「思い」が、薫の一番奥底に「収納」されたあるものを「引き出し」、逆境を打開する決定打となりました。
 何かを守ろうとする思い。それはまさしくジョセフの言う「黄金の精神」であり、母を守るために吉良吉影に対峙した川尻早人本歌取りにもなっています。
 『The Book』では寂寥感溢れる清々しい読後感でしたが、『テュルプ博士の解剖学講義』は正に「グッとくる」読後感でした。
 「読むジャンプ」から6年、待ちわびたファンを裏切らない傑作でした。グラッチェ!
(ネタバレ反転→)この味は!ウソをついてる『味』だぜ・・・(←ここまで)