『ようこそ無目的室へ!』(在原竹広/HJ文庫)

ようこそ無目的室へ! (HJ文庫)

ようこそ無目的室へ! (HJ文庫)

 「無目的室」に集まる無目的部員たちによる謎解き話が集められた連作ミステリ短編集です。
 全8章構成ですが、正直7章まではあまりにもクイズ形式な展開に「これって小説にする意味があるのか?」と疑問でした。無目的室の中で行われる会話だけの物語。”安楽椅子探偵風味”といえば聞こえはいいですが、問題の出し方にまったく臨場感がありません。特にほづみが出題者となっている1,3,6章は拙くて、聞いている千尋や圭助のフォローによってかろうじて問題として成立している有様です。それでいて、その謎が面白いものかといえば、引っ掛け系が多い割には分かりやすい簡単なものばかりで、いくら中高生向けのライトノベルミステリだからってゆる過ぎるだろ……って思ってました。ごめんなさい。私が全面的に間違ってました。心からお詫びします。
 ある本について、それを読む読まないはもちろんその方の自由ですし、つまらないと思ったら途中で読むのをやめるのもまた自由です。ですが、本書の場合だと、私自身がキャラクタに魅力は感じられないわミステリとしては退屈だわで途中で読むのをやめそうになってしまったので尚更ですが(コラコラ)、どうか最後まで読んで欲しいと思わずにはいられません。いろんな意味で素直に「面白い」とはいえないのですが、しかしながらとても印象に残る一冊でした。
 以下、微妙な内容紹介。

教室で見たもの

 知に働けば角が立つ。ここで圭助が言ったことは確かにそうです。

アイ・ポイント

 三人がそれぞれの推理を述べていく毒入りチョコレート事件テイストなお話です。こういう場合、力関係として後に仮説を述べる者の方が往々にして推理力が高いのがポイントです。

カレー好きのX

 一郎の読んでる本(『そして誰もいなくなった』)を見たほづみが即座に「インディアンのやつだ」と口にしているのは見逃せなくて、つまりその手の話題に詳しいということですね。

書店の彼女

だからどこかで、聞いてほしいという感情も確かに働いているのだ。
(本書p115より)

 多分このことが言いたかったお話です。

それでいいのかの猫

「疑うのはあんたらにやってもらう。あたしはあんたらの出した推論を突きつけられて、心ならずも後輩を問いただすという体で」
「……それは都合がいいというのでは?」
「その通りなんだ。あたしは都合がいい女。自分が傷つくのが嫌い」
(本書p156より)

 傷つくのはもちろん嫌ですが、傷ついてるのを認めるのが嫌なときもあります。

ラブレター・フロム・誰か

 これはもうノーコメントとしかいいようがありませんが、『外の内という』暗号の意味が伝わったということなのでしょうね。

妹・由美子の話

 この作品全体についていえることなのですが、ミステリにおける三人称記述では会話文以外の地の文ではでたらめを書くことが許されないというのが一般的な認識です。逆に言えば会話文には気をつけなくてはいけないということになるわけです。
【参考】三人称視点の語り手は誰? - 三軒茶屋 別館
 で、読み返してみれば分かるのですが、本書は実際この点にかなり気を使ってます。出題がまるでクイズ問題みたいに感じられるのは地の文でのフォローが極端に少ないからです。もちろん、それだと虚と実の境目はあいまいなものになりますけれど、そこが本書の眼目なのは最後まで読まれた方には説明不要の事柄でしょう。

影絵芝居

 最後の章についてはもちろん何も語れません(笑)。
【関連】
大きな物語と小さな物語と連鎖式 - 三軒茶屋 別館
雑談小説と安楽椅子探偵小説 - 三軒茶屋 別館



【追記】

というわけで、本作。それはもうあからさまに黒後家蜘蛛を意識している。なんたって藍座市に霜府高校だからね。
(「ようこそ無目的室へ!: グッドクール総研別棟書架」より)

 それは気付けませんでした。く、悔しい……。