『死神の精度』(伊坂幸太郎/文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)

 死神が主人公の6つの短編集です。人間誰しもいつかは死にます。そんな死を擬人化することで6人6様の人生を浮かび上がらせています。
 死神といっても仕事の内容は事務的です。「死」の対象となる人物に一週間前に接触して「可」か「見送り」かを判断するという、ただそれだけです。その判断基準は死神個人の裁量に任されていて、しかも大抵の場合「可」と判断することになっています。ほとんど意味のないように思える仕事ですが、観察してるだけのつもりが知らないうちに対象に干渉している結果になってたりして、そんな微妙な因果の揺らぎが面白いです。
 主人公である死神(「千葉」という名前)ですが、クールでありながらどこか間が抜けています。死神だけに人間の「死」はたくさん見ていますが、その一方で「生」というものがよく分かっていません。一方、観察対象となっている人間は「生」についてはそれなりに語れますが「死」についてはよく分からないわけで、そんな死神と人間の会話が死の匂いが漂っているにもかかわらずどこかコミカルで面白いです。

死神の精度

 電機メーカーの苦情処理係の仕事をしている女性が調査対象です。彼女を悩ますクレーマーの正体は何なのか? そんな調査対象を尻目に音楽を聴いてる死神をクールというよりはドライに思いますが、だからこそ結末がゴニョゴニョなわけで(笑)。まあ、人間にとっての死とは確かにこんなものかもしれませんしね。

死神と藤田

 死神、任侠を学ぶ(笑)。古臭い任侠に生きるやくざと死神の姿がどことなくダブってくるのが面白いです。

吹雪と死神

 雪に閉ざされた山荘を訪れることになった死神。ミステリ+死神ですから死亡フラグが立ちまくりです(笑)。当然のように人が死ぬことになりますが、その真相はちょっとトリッキーで面白いです。

恋愛で死神

 死神が見つめることになったのは、一人の男の死に様というよりはひとつの愛のかたちです。人は死ぬ定めにあるからこそ共感できる相手を求めるのかなぁと思ったり思わなかったりです。人と死神はいつまでもズレた会話を続ける運命にあるのでしょうね。

旅路を死神

 人を殺した若者の逃避行に同行することになる死神。刹那的な若者の言動が死神の視点によって強調されています。人間は愚かで人生は哀しくて、どこまで行っても安心なんてないんだろうなぁとセンチなことを思ったりしました。

死神と老女

 最初の作品『死神の精度』で、死神の仕事を床屋のそれに例えて説明しているのですが、最後の作品の調査対象として美容院の老婆を持ってくるのがニクイですね(笑)。それだけでなくて、作中で思わぬリンクもあったりするのが嬉しいです。「人間じゃない」と見破られた死神が、なんとなく老女にこき使われたりする姿が微笑ましいです。

 「死」とは誰もが向き合わなければならないシリアスなテーマですが、奇妙な死神の語りによって自然に読めちゃいます。そんな死神の独特な口調・文体も本書の魅力のひとつです。老若男女を問わず楽しめる物語として広くオススメしたい一冊です。