『装飾庭園殺人事件』(ジェフ・ニコルスン/扶桑社ミステリー)

装飾庭園殺人事件 (扶桑社ミステリー)

装飾庭園殺人事件 (扶桑社ミステリー)

「あいつは嘘つき野郎だから。嘘をつくことで、なにが起こっているのか誰にもわからなくしちゃうのが楽しかったのよ。ぜんぜんなんの意味もないんだけどね。人を混乱させるのが好きだったの。そうすることで、自分のことを興味深い人間だと思わせたかったんだと思う」
(本書p42より)

 ロンドンのホテルの一室で男の死体が見つかる。警察は睡眠薬による自殺と判断したが、美人の未亡人はそれを否定する。ダービーシャー州で装飾庭園を造っているはずだった彼がなぜロンドンに? 彼女は事件の関係者と思われる何人もの人物に接触して事件の調査を依頼する。しかし、それぞれの人物から語られる事実と、そして彼ら自身もとても奇妙な人物で、真相はますます混迷していく。そして彼ら全員を一堂に会しての謎解きが披露される。そこで明らかとなる驚愕の真実は……。といったお話です。が……

  ∧_∧
⊂(#・ω・)
 /   ノ∪
 し―-J |l| |
         人ペシッ!!

 いや、私だけでなく登場人物の幾人かの心境もこんな感じでしょう(笑)。とはいえ、登場人物もそれぞれがそれぞれにふざけてます。
 被害者の自殺を疑う未亡人の再調査によって、幾人もの登場人物が事件に巻き込まれていきます。物語という庭園に配された関係者というオブジェクトたち。そんな様々なオブジェの視点から庭園の様子が語られる、本書はそんな形式のお話です。すなわち、本書には16人の登場人物がいますが、それら全員の視点から物語が語られます。群像劇形式(参考:グランドホテル方式 - Wikipedia)といわれるものですが、死者がひとりの自殺とも事故とも事件とも知れぬ出来事を描写するのには大仰な手法のようにも思われます。ただ、ひとつひとつの木や石といったオブジェの多様さというか多彩さというか奇妙さを堪能する上では効果的な方法ではあります。そんな群像劇ですが、本書はどういうわけか性的な意味で倒錯したり誘拐事件が発生したり脅迫者が現れたりと、真相を追い求めれば追い求めるほどに混迷の度合いを深めていきます。脱線に脱線を重ねた末に、いったいどんなオチをつけるのかと思いきや、いやはやこうくるとは……。
 ミステリを読み始めてそれなりの冊数を読破された方に「なにか面白いのない?」ときかれたときに満面の笑みでオススメして読了後に「ふざけんな!」と罵倒されるのをニヤニヤしながら楽しむのに最適な一冊です。