『窓際の死神』(柴田よしき/新潮文庫)

- 作者: 柴田よしき
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/01/29
- メディア: 文庫
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容貌もまちまちならば、死神が任されている仕事もまたまちまちです。『デスノート』の死神はその名のとおり人間を殺します。『死神の精度』の死神は対象の死について儀礼的な裁量権を持ってます。『本泥棒』の死神は魂を運ぶだけの仕事です。一言で「死」と言っても、そこには様々な側面とテーマがあって、それに即した形で死神の姿も変わることになります。
本書『窓際の死神』に登場する死神は、フランスのブルターニュ地方に伝わるアンクーという死神がモデルとなっています。アンクーを見ると、自分または自分の愛する人が死ぬ、とされているそうです。本書の死神はそれとは少し違ってます。死神を見ると、自分または自分以外の誰かが死ぬことになります。死を司る神にしては死の扱いがルーズだと思いますが(笑)、自分かそれ以外の者の死を選べといっても確かに酷でしょう。しかも、本書に収められている中編2本の主人公のOL2人はどちらもともに悩みを抱えていて、人生にかなり疲れています。そんなときにこんな死神に出会ってしまったら心も揺れるというものです。しかしながら、そんな揺れこそが本書の一番の読みどころなのです。生と死は表裏一体です。死を想うことで死が見えてきますが、しかしそこには生を見ることだってできるでしょう。本書に登場する死神は窓際のサラリーマンという風体です。会社勤めのOLにとっては見たくもないな存在でしょうが、窓の外には思わぬ景色が広がっているかもしれません。それが本書のタイトルに込められた作者の意図じゃないかと思ったり思わなかったりです(笑)。
本書に収められている中編2本は、そのタイトルのとおり昔話がモチーフとなっています。死神に昔話という二重の寓意性の構成は少々まどろこっしいようにも思いますが、”死”という個人的な事象を普遍的な物語にしたいという狙いがあると推察されますし、おおむね成功しているんじゃないかと思います。
〈おむすびころりん〉は、タイトルどおり”おむすびころりん”がモチーフとなっているわけですが、そんなふうに読んだことはありませんでした(笑)。死の命数を巡る死神と多美のやりとりは、どことなく昔読んだえんどコイチの『死神くん』を髣髴とさせるものがあって懐かしかったです*2。実際、ラストも『死神くん』っぽいですしね(笑)。
〈舌きりすずめ〉も前作と同じく昔話の”舌きりすずめ”がモチーフとなっていますが、作品への生かされ方はこっちの方が上です。普通のOLとしての人生と小説家としての成功と、どちらのつづらの方が大きいのか? 中には何が入っているのか? 自分が欲しいのは何なのか? 屈折した人生を過ごしていた麦穂が死神との出会いによってひとつの決断を下すことになります。一般的にはそれが正解かどうかは分かりません。ただ、麦穂にとっては紛れもなく正しい答えなわけです。
死神が登場するお話ではありますが、”DEAD or ALIVE”といった単純なお話にはなっていなくて、そこがとても面白いところです。死神が出てくる物語が好きな方(そんな人いるかなぁ?)にはオススメしたい佳品です。