『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(入間人間/電撃文庫)

 ライトノベルを適当に読み漁ってると、たまにこーゆーのに出会いますよね。ダウナー系でそんなに深く心をえぐってくるわけじゃないけど、変わった傷跡は残しそうなタイプの厄介な物語です。適切な例えかどうかは分かりませんが、『絶望系 閉じられた世界』や『永遠のフローズンチョコレート』、『僕らはどこにも開かない』、『ちーちゃんは悠久の向こう』(これはちと違うか?)などが仲間だと思います。ただ、それらに比べると本書はちょっとだけ前向きに読めるのが評価できます。ってか、私はこれ嫌いじゃないです。少ないですが将棋ファンらしき表現が用いられているからです(笑)。名人戦で4三香車が名手になった対局って何かあったでしょうか? 心当たりのある方は教えていただけると大変うれしいです(笑)。
(以下、既読者限定でグダグダと。)
 みーくんと精神科医とのやりとりは、そこはかとなく『ロクメンダイス、(プチ書評)』を彷彿とさせます。やはり『ロクメンダイス、』は必読書ですね(笑)。これで刑事のキャラがもうちょっとリアル志向だったら良かったのにと個人的には思いますが、これが今風のラノベなのかもしれません。ミステリ読みとしては、サイコ・キラーならぬサイコ・誘拐犯というのが目新しく感じました。もっとも、誘拐の理由が曖昧なままなのは気に入りませんが。それと、いくらなんでもこの流れで主人公の保護者がまーちゃんとの同棲を許可するのはさすがにないと思います。冬目景の『羊のうた』より遥かに不自然です(笑)。
羊のうた (第1巻) (バーズコミックス)

羊のうた (第1巻) (バーズコミックス)

 ”みーくん”という名前は明らかに戯言シリーズを意識してのことでしょうが、Zガンダムカミーユへのオマージュもあるのでしょう、多分。だとしたら、著者がテレビ版と劇場版のどっちにシンパシーを感じてるか個人的にとても気になります(ちなみに私は断然テレビ派です)。幸せのために真実を否定し嘘をつき続けるという生き方を選択しつつも、その中で過去に何があったかを明らかにするために、本書はとても凝った、というより捻くれた構成をしています。おかげで再読することになりましたが、それなりに楽しい作業でした。被害者でもあり加害者でもあり探偵役でもあり、でもどれでもない主人公の立場が偽善的で偽悪的な性格にピッタリはまってるのが面白いと思います。しかし、飛び降りは唐突じゃね?(苦笑)
 本来、陰鬱で不快なはずの物語に変な潤いを与えているのが今風(?)のパロディネタです。私の分かる範囲で拾ってみました。

パロディ 元ネタ
謎は全て解けて犯人はお前なんだけど(p33) 金田一少年の事件簿
天空の花嫁(p35) ドラゴンクエスト
某国際的ランドの中の人(p81) ディズニーランド(参考:東京ネズミーランドの思い出
好き好き大好き超アレしてる(p99) 舞城王太郎好き好き大好き超愛してる。
「待ち合わせはどこにしましょうか」「暗いところで」(p121) 乙一『暗いところで待ち合わせ』
特殊な呼吸法による細胞の活性化か(p138) ジョジョ(リサリサ)
からっきしの三級品(p139) TVアニメ『一休さん』のOP
なんちゃらうえお(p139) うえお久光
某国民的アニメ〜(p139) 言わずもがなの『サザエさん
”ひのきの棒”と”毒針”(p222) ドラゴンクエスト
「もう慌てる時間じゃない」(p223) スラムダンク』の仙道のセリフ「まだ慌てる時間じゃない」
黒マントの糸使い(p224) ブギーポップ
手首を切る犯人の物語(p227) 乙一GOTH(書評)』(リストカット事件)
ヤバイヨヤバイヨ(p245) 出川哲郎
ひとやすみ、ひとやすみ(p245) TVアニメ『一休さん

 この程度のことは、本書を手に取るような方であればご存知のことがほとんどでしょう。他にもネタっぽい記述は散見されましたが、よく分かりませんでした。ご指摘下されば適宜追加致します。こういうネタを混ぜちゃうと普遍性が失われてしまうわけですが、それができてしまうのも読み捨て覚悟のライトノベル電撃文庫というレーベルだからこそかもしれません。いずれにしても、今書きたくて、かつ、読まれたかったのでしょう。
 問題作の皮をかぶってはおりますが、実は意外と真っ当な青春小説だと思います。少々サイコ風味ではありますが、私なんかは普通にオススメできちゃいます。……ひょっとして私が歪んでるのか?(笑) あ、カバー裏には気付いていますので念のため。
【追記】http://bibliomania.jp/mydear/diary/article.php?id=3158(p236の元ネタの詩について指摘されています。)
【プチ書評】 2巻 3巻 4巻 5巻 6巻 7巻 8巻 9巻 10巻 短編集『i』