『うらにわのかみさま 1〜3』(神野オキナ/HJ文庫)

 3巻でスク水美少女になったクトゥルフが出てくるという話を聞きまして、あえて釣られて読みました(笑)。ってゆーか、この表紙絵はさすがに……。いや、ある意味名状しがたいですが……。

 と、とりあえず1巻と2巻の内容をざっと振り返ることから始めましょう。
(以下、長々と。)
 神無月ならぬ神無年には多くの神様がいなくなっちゃって、その隙に神様もどきが神様になろうと目論むので、それを防ぐために虎神さまの依頼を受けた女子高生・垣華ユウは神様もどきを鎮める手伝いをすることになりました。一方、同じ高校に通う山内霧人は猫神さまに頼まれて、神様もどきが神様になろうとする手伝いをすることになります。ユウと霧人は学校内で少しずつ仲良くなっていきますが、その一方で互いの正体を知らないまま互いの神様の頼みによって戦うことになります。で、2巻と3巻ではなんだかんだで共闘することになります。個人的には、最初の戦闘以外にも何度か2人が戦ってた方が後の展開がもうちょっと自然になってたように思いますが、かわいい神様がでてきますし、魔法少女ものや巨大ロボットもののパロディ要素もあって、さらにマニアックなプラモ作りなど、随所に読者が楽しめるような要素が盛り込まれていますので気楽に読めます。3巻になると初々しいラブコメ展開も楽しめますので、そういうのが読みたい人は是非3巻までたどり着いてください。
 しかし、なにはともあれクトゥルフです。表紙絵を見れば明らかなのですが、「やっちゃった」感に満ちてます(笑)。しかし、”神”と”萌え”は相性がよいものですし、ま、ありと言えばありでしょう(参考:広井王子の芸夢花伝:第6回 美少女は“神”である)。いや、私だって本当は、知識と真実を追い求める者に対して理解不能の存在として名状しがたい恐怖を与える深遠たる存在である王道のクトゥルフものが読みたいです。でも、「邪神よ出でよー」と呼ばれて、それでいかにも邪神みたいな存在として顕現しちゃったら、それはそれでクトゥルフの名がすたるというものでしょう。邪神として望まれたら魔法少女っぽい恋の神様になって現れるというのも、それはそれで面白いと思います。
 本シリーズの舞台に沖縄を選んだ理由として、著者は1巻のあとがきで「ごく当たり前にそこら辺に神様が居る」世界だからと述べてます。それはそうなのでしょうが、3巻の展開を踏まえますと、与那国島海底遺跡(参考:Wikipedia)をルルイエに見立てたとしか思えません(笑)。だって、沖縄文化の神様が出てこないんですから、そうなると本シリーズの設定自体がクトゥルフの登場ありきのものなんじゃないかと思っちゃいますよ。趣味に走ってクトゥルフばかり強調しちゃいましたが、本書に出てくるクトゥルフは独自色が強すぎなので(笑)、クトゥルフをまったく知らなくても問題ないでしょう。ってゆーか、クトゥルフ神話というのは、無知なる者には優しく知恵に溺れる者にはこれ以上ないほど残酷に襲い掛かることを本質とする神話なので、クトゥルフに馴染みのない方もそれを理由にクトゥルフものを敬遠して欲しくはないです。お気軽にどうぞ(笑)。なお、耳慣れない単語についてはWikipediaのクトゥルフ神話の項目で補うことが十分可能なので、ご参考までに。
 3巻のあとがきによれば、本シリーズは次巻で完結するそうです。3巻がラブコメ的にすごい引きで終わってるので続きが気になります。他にも、霧人が作っている”魔界”がどうなるのか? 虎神さまと猫神さまの宿命の戦いの結末は? 恋の美少女神の再登場は?(笑) 神という名の親離れ子離れの物語でもある本シリーズですが、明るい結末が待ってればいいなぁと思います。
うらにわのかみさま(1) (HJ文庫)

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うらにわのかみさま 2 (HJ文庫)

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