『島田荘司のミステリー教室』(島田荘司/南雲堂)

 島田荘司によるミステリー執筆の指南書であり、また、島田荘司の見るミステリーの歴史書でもあります。
 本書は、『創作質問会』と『講演録』の二部構成になっています。
 『創作質問会』は、島田荘司のQ&A形式によるミステリーの書き方の説明です。基本的なことでもすごく丁寧に答えています。「自分で考えろ」って切り捨てることがまったくなくて、結論としてそういう答えになってしまうことがあっても、自分だったらこうする、あるいは現にこうしているけど、それは人それぞれでしょうという感じにホントに丁寧な質疑応答になってます。そのため、単なる指南書の枠を越えて島田荘司によるミステリー各論ともいうべき濃密なものになってます。ときには、違う質問に対して同じような答えを返しているようなものもあってを既視感を覚えることもあります。しかし、それは手抜きとかそういうことではまったくなくて、正直に答えているからこその重複だと思います。
 『創作質問会』は五章立てですが、第五章は『台湾メディアによるQ&A』となってます。台湾のミステリー事情に興味のある方には魅力的な章題だと思いますが、実際には日本ミステリー史の説明になってしまっていて台湾ミステリーについてはまったく分かりません。台湾ミステリー事情については、taipeimonochromeさんが不定期的に詳しく話題にされていますので、強くオススメします。
 『講演録』は日本のミステリー史と本格について語られています。ミステリー史については、黒岩涙香から現代の新本格までを端的に分かりやすく説明されているので、自分が理解するのにも便利ですし、他人に説明する場合にも「これ読んで」ですむのでやはりとても便利です(笑)。
 本格についての説明は、これはあくまで島田説であって、一般的なもの・通説と勘違いしちゃうと不要な議論を誘発することにもなりかねないので注意を要するでしょうね。とはいえ、島田の論はとても整然としていて理にかなってます。私自身は、島田説に対して正直ところどころに違和感を覚えてはいますが、それでも数年後にはプロパーなものになってるかもしれません。小難しい話が好きな人にとっては面白い内容だと思います。
 いずれにしても、本書は島田荘司ファンにとっては必読書&必携書と言えるでしょう。

 あとは雑感になりますが、p15「カギカッコ内、末尾の句点」で、綾辻行人の『びっくり館の殺人』はあえてこういう手法を採っている、というような説明がされています。しかし、講談社ミステリーランドを全部読んでるわけではありませんが、私の知る限りの講談社ミステリーランドはすべてそういう手法を採っているものと記憶しています。ですから、綾辻行人がどうこうというより講談社ミステリーランドというレーベルがそういう手法を採用していると理解するべきでしょう。ってゆーか『透明人間の納屋』は?(笑) あと、綿矢りさ『蹴りたい背中(書評)』なんかもそうでしたね。いずれにしても、現在ではとても少ない手法であることには違いないですけど。
 歌野晶午について、「彼にはもともとゲーム型志向とか、記号化表現の必要性という意識はありませんでした」(p172)と言ってる矢先に、奇しくも『密室殺人ゲーム王手飛車取り』みたいなゲーム性が炸裂した作品が発表されて、それでいて島田の説明が『王手飛車取り』が単なるゲーム小説ではない社会性を備えていることの説明になっちゃっているのがとても面白かったです。まさに”ミステリー(神秘性)”ですね(笑)。
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島田荘司のミステリー教室 (SSKノベルス)

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