『密室殺人ゲーム2.0』(歌野晶午/講談社ノベルス)

密室殺人ゲーム2.0 (講談社ノベルス ウC-)

密室殺人ゲーム2.0 (講談社ノベルス ウC-)

映画『ソウ』のシリーズの素晴らしいところは、前作までに使われていた驚きを踏まえたうえで、同一線上から少しだけずらした驚きを提供することにある。焼き直しではなく、まったく違うということもなく、少しだけずらすことにより、シリーズの世界観を拡散させることなく奥行きを与えている。自分もそういうずらしができればと思い、『密室殺人ゲーム』の続編を書いた。
(本書カバー折り返しの著者の言葉より)

 『密室殺人ゲーム王手飛車取り』まさかのシリーズ化です。
 とはいえ、実際に殺人を犯した上でそのトリックを問題として出題し合うという設定自体は、シリーズ化されても何ら不思議なものではありません。それでは何故シリーズ化が意外なのかといえば前作の結末に理由があるわけですが、そんなのお構いなしに〈頭狂人〉〈044APD〉〈aXe〉〈ザンギャ君〉〈伴道全教授〉の5人による殺人推理ゲームは進められていきます。もっとも、物語の中盤以降で前作とのつながりは明かされます。前作既読の方が覚えるであろうフラストレーションもその時点で解消されることはお約束します。

Q1 次は誰が殺しますか

 ネットに集まった5人が検討するのは、自分たちの推理ゲームではありません。他者が行なっていると思われる殺人ゲームのゲーム性の検討です。殺人でゲームを行なうとはいったいどういうことでしょうか?ゲーム感覚で人を殺すといった事件が必ずしも珍しくない現実があります。ですが、「やんちゃな中学生が公園のホームレスを殺す」ようなゲームと、彼らが行なっている殺人ゲームとを一緒にされることはプライドが許しません。彼らは戦略と戦術に基づいた知的なゲームとして殺人を行なっているからです。

Q2 密室などない

 脱力問題集ではありますが、現実の殺人と殺人ゲームの違いが語られるという意味では重要な章であるともいえます。

Q3 切り裂きジャック三十分の孤独

 いよいよ殺人ゲームの開始ですが、先陣を切るはミステリの王道・密室殺人。悪趣味極まりない残虐トリックが炸裂しています(笑)。単に悪趣味なだけではなくて、警察と名探偵との推理の違いの論証が面白いです。奇形な作品だからこそ語れることがあるという好例だといえるでしょう。

Q4 相当な悪魔

 お次はアリバイものです。アリバイものといえば複雑な時刻表トリックなどがどうにも肌に合わないという方もいるかもしれませんが(他でもない私がそうです・苦笑)、本作のアリバイトリックはそういう類のものではないのでご安心ください。逐一アリバイを証明しながらの殺人旅行(?)は殺人ゲームならではといえますが、そうした演出が意味を持つのはゲームの出題者と解答者の間のみで、それとは関係ない第三者にとってはトリックでもなんでもないのがこの事件の危うい点ではあります。ただし、そもそもアリバイなど用意するから怪しまれるんだ、といわれることもあるトリックですから、案外それくらいの方がいいのかもしれませんね(笑)。などと思いながら読み進めていると何とも意外な展開が……。

Q5 三つの閂

 雪密室です。足跡のない雪の平原の中に存在する死体。美醜が混在する幻想的な光景は確かにロマンチックではありますが、実際にそんなトリックを使おうにも、都合よく雪が降るのを待っていることなどできようはずもなく、しかしながら雪密室を作ること自体が目的であればいくらでも待てるわけで、そうして作られたのが本章の雪密室です。とはいえ、何といいますか、トリックの絵が浮かばないといいますか……。やはりロマンはロマンであって、いざ実現させてしまうと辛いものがありますね(苦笑)。

Q6 密室よ、さらば

 最後を飾るのはまたもや密室ものではありますが、これまでの集大成ともいえる密度を誇っています。ゲームとはいったい何か?そしてゲーマーとは?最後に示されるひとつの仮説について、私は必ずしも全面的に同意するものではありませんが、そういう面もあるかもなぁ。くらいには納得できます。
 基本的には前作と同じ設定なため、異様で不謹慎ながらも皮肉の利いた会話によるストーリー展開や倫理的なリミッターを解除することによって生まれる衝撃などは、どれだけ巧みに描こうとも前作に及ぶものではありません。ですが、前作では、普通のミステリでは使用できない没トリックの再利用の趣きが拭えない感がありましたが、本書では、ゲームならではのトリックや見せ方というものが意識されていて、ミステリとしての質という面では前作を上回る出来栄えになっています。前作同様ミステリ読みにはオススメの一冊です。
【関連】
『密室殺人ゲーム王手飛車取り』(歌野晶午/講談社ノベルス) - 三軒茶屋 別館
『密室殺人ゲーム2.0』(黄金の羊毛亭)*1

*1:ネタバレ感想内でのご指摘を受けまして文中の表現を一部修正させていただきました。