『DMC』に見るツンデレと二重人格の違い

 月刊『創』5月号は「マンガはどこへ行く」と題してマンガについての特集号となっています。漫画雑誌の部数と単行本の発行部数の関係とかデジタルコミックについてとかTVアニメとの関係などなど。いろいろと興味深い特集となっています。
 そのなかで私が面白いと思ったのが実写映画化ということで注目されている『デトロイト・メタル・シティ』の作者・若杉公徳のインタビュー記事です。詳細については実物を読んでいただくとして、特に目を引いたのがその中のこんな一文です。

根岸は二重人格ではなく、感情の延長線上にふたつの人格があるように気をつけています。
(『創』5月号所収「まさかの実写化『デトロイト・メタル・シティ』」p58より)

 ふたつの人格ではなくて、ひとつの人格の中での感情の振幅だからこそ苦悩があるわけで、そこに読者は共感とか同情を覚えつつも、しかしながら笑ってしまうわけですね(笑)。
 同じことはいわゆるツンデレにもいえると思います。ツンデレ自体が定義のあいまいな言葉なので滅多なことはいえないのですが(汗)、”ツン”と”デレ”のギャップが魅力ということはいえるでしょう。これをツンデレが理解できない一般の方*1に説明しようとすると、ギャップの落差から二重人格と間違われてしまうことが往々にしてあります。ですが、ツンデレの場合には、”ツン”と”デレ”はひとつの感情の延長線上にあるのであって、決して二重人格なわけではありません。別人格に逃避するのではなくて、ひとつの人格の中に抱え込んでいるからこそ、そこに苦悩があって読者も共感できるわけです。
 ちなみに、こうしたニアミスの背景には、二重人格(多重人格)という概念が持つ難しさがあります。人の人格、あるいは性格というのは誰しも多面性を有しているわけですから、ものすごく広い意味で捉えれば誰もが多重人格であるといえるでしょう。一方で、精神疾患のそれとなりますと正確には解離性同一性障害と呼ばれることになるわけですが(参考:解離性同一性障害 - Wikipedia)、これは人格間の記憶の独立といった症状を伴うもので、これは本当の別人格です。こうした狭い意味での二重人格となると軽々に口にできるようなものではなくなります。ま、この問題は深入りすると私の手には負えなくなってしまうのでこの辺りでフェードアウトすることにします。
 そんな二重人格ですが、それが広まった理由としては、ダニエル・キイスの『24人のビリー・ミリガン』が火付け役となったというのもあるでしょうが、ミステリの意外な犯人役として二重人格が重宝されたというのもあると思います。だとしたらミステリの愛読者として知らん顔するわけにもいかないのですが(苦笑)、それはそれこれはこれとして上手に付き合っていきたいものです。
 なお、この『創』の特集ですが、他にも「文芸漫画『鈴木先生』武富建治氏インタビュー」や「『アオイホノオ』作者島本和彦さんに訊く」なども掲載されていますので、興味のある方はぜひ一読をオススメします。

創 (つくる) 2008年 05月号 [雑誌]

創 (つくる) 2008年 05月号 [雑誌]

デトロイト・メタル・シティ (1) (JETS COMICS (246))

デトロイト・メタル・シティ (1) (JETS COMICS (246))

*1:分からないまま一生を終えても何の問題もありませんが(笑)。