なぜ人は書評を書くのか?

電脳の海を巡っていますと、最近はしばしば書評サイト(あるいは感想サイト)論を目にします。
当サイト「三軒茶屋」は書評サイトとして7年ほど前から細々と続けておりますが、書評サイト論そのものが議論されたり注目されるのはここ数年、とくに「blog」というツールが人口に膾炙しはじめてからかな、と思います。
というわけで1年程前に書いた「なぜ人は書評を書くのか?」という記事を一部修正+追加し、再掲しました。
デチューンとか言うな!リサイクルって言え!
(以下、どちらかというと書評サイト(感想サイト)を運営している人向けの記事です。わりかし長文です)



 読書感想(書評)を書き、Webサイトに公開する(人に見せる)のには大きく分けて4つの理由があると思います。
(1)未読の方に面白さを伝える
(2)未読の方に警告する
(3)既読の方と感想を共有する
(4)既読の方にさらに面白さを伝える

 まずは(1)について。
 読んで面白かった本、自分の好きな作家の本は一人でも多くの人に読んで欲しい、というのは読み手として自然な心理だと思います。
 「読んで欲しい」ということは対象は未読の人向け。未読の人向けということはネタバレなしで感想を書かなければいけません。
 (1)を目的とした読書感想(書評)は、意外と難しいのではないかと思っています。
 自身の経験を踏まえて言いますと、はっきり言って、一番技量を必要とされるのが「未読の方にその本の面白さを伝える」書評サイト(あるいは感想サイト)だと思いますし、一方で「○○さんの記事を読んでこの本読みたくなりました」「○○さんの記事に触発されて読んでみました!面白かったです、ありがとうございました!」と言われた時の喜びは、「これであと3年は戦える!」と思えるほどの書き手のエネルギーになると思います。
 次に(2)について。
 このケースはレアですが、ぶっちゃけ「地雷本を読んだから気をつけて!」という警告です。
 ただし評価型の読書感想(書評)などである「面白くなかった」という感想は、「(3)既読者との感想共有」がメインの目的として書かれていると思われますので、業務妨害の意図でもない限り積極的に(2)を目的として読書感想(書評)を書く人は少ないでしょう。
 (3)について。
 読んだ感想を他人と共有したい。読後、「面白かった」「つまらなかった」と既読の人と話をしたい。
 この欲求は誰もが持っているものであり、単に感想を語り合うだけでなく、内容について既読の人と一緒に考察したい、などという欲求も当然出てくるでしょう。
 内容の話をする以上、ネタバレになってしまう可能性もあります。(むしろ、ネタバレの部分を語りあいたいという欲求もあるでしょう)
 たまに「ネタバレをするな!」と言う原理派の方もいらっしゃいますが、森博嗣いわく「あらすじ以外に内容に触れることはすべてネタバレ」であり、つまりは読書感想自体がネタバレなわけです。
 自書がネタバレされるのを嫌う作家などは、取材お断りのラーメン屋のごとく「感想お断り」の看板を掲げてみてはいかがでしょうか。
 (4)について。
 例えば読んだ本を考察し、ただ読んだだけでは見逃してしまう伏線を伝えたり、本の「観方」を変え、更なる面白さを伝えることを目的としています。
 「なるほど、そうだったのか!」と再読する楽しみを与える。
 または、邪推権(by新城カズマ)を駆使し、作者の思っても見なかった意図や行間を妄想する。
 一度読んだ本をさらに面白くさせる、または「つまらない」と言われている本の楽しみ方を伝える。
 そういう意味では(1)に通じるところがあるかと思います。
 アイヨシ・フジモリの書評はこのパターンが多いかと思います。
 ちなみに、(5)として「俺はこんなにたくさんの本を読んだんだ!すごいだろう!」「この本を読んで俺はこう思ったんだぜ!」という、「本を読んだ『自分』を伝えたい」(あるいは「『本の感想』そのものよりも本の感想を書く『私』を見て(楽しんで)ほしい」という目的もあるかもしれませんが、今回の主旨から外れますので除外しておきます。

書評サイト(感想サイト)のスタンスとしては大きく分けて2種類あるかと思います。
(1)読んだ「本」そのものを伝えたい(『本』が「主」、『私』が「従」)
(2)「『私』が読んだ本」を伝えたい(『私』が「主」、『本』が「従」)

どちらのスタンスを取るかで「書評サイト(感想サイト)論」そのものが変わってくると思いますので、「自分のサイトはどちらに重きを置いているのか?」を考えたうえで議論すると、書評サイト(感想サイト)論がより有意義になるのでは?などと老婆心ながらに思ってしまうのです。
ちなみに、当サイトのスタンスは(1)の「読んだ「本」そのものを伝えたい」です。
以前の自営業の例えで言うと、「三軒茶屋」はその名の通り茶店であり、「料理(もっと言えば料理に使われている素材)」を食べて欲しいと思っています。当店にはカリスマ料理人や看板娘などいませんので「料理を作る人、売る人」目当てで来るお客様はあまり期待できませんし。
ただしその料理自体がマイナーで集客力に限界がありますので、別の料理(書評以外の記事)で多くの人に来店していただこうと考えているわけです。ラーメン目当てで来た客に「ふーん、知らなかったけどブルーベリーのスイーツもメニューにあるんだ」と思っていただき、「お、食べてみたら美味しかった!ブルーベリーってこんなに美味しいんだ!」という意見をいただけたら望外の喜びなのです。(もちろん、はじめからスイーツ目当てでいらっしゃったり、カリスマ料理人や看板娘(いませんが)、あるいはお店の雰囲気が好きで来ていただいたらそれはそれで非常に嬉しいです)
当店がだらだらと続けていられるのにはいくつか理由が在りますが、一つにはやはり「書評サイトとして(あんまり)軸がぶれてない」ことなのかなぁ、と認識する次第です。
オチもない長文で恐縮ですが、ここまでおつきあいいただきありがとうございました。
当記事が「あなたの」書評サイトにとって何かしらの参考になれば幸いです。
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