戻ってくれない過去がある。〜「時をかける少女」と「サークルもの」〜

時をかける少女 通常版 [DVD]

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アニメ「時をかける少女」観ました。昨年映画を何回も観たしDVDも持っているのに観てしまう罠。
なぜこの作品が心の琴線に触れるのかを、以前筒井康隆版『時をかける少女』の書評で「サークルもの」を例に出しまとめてみたので別館に出張収録することにします。本館では会話調の書評なので若干修正を加えてはいるものの、普段と文体が異なりますが、ひとつご容赦の程を。

 時間を戻って過去をやり直せるという時間跳躍(タイムリープ)と、「やり直したい過去がある」青春時代とは非常に相性がいい。もっとも、青春時代を題材とした小説やマンガなどは、「やり直したい過去」をイメージしていることが多分にある。
 いわゆる「サークルもの」がそうだ。秋山瑞人イリヤの空、UFOの夏」の新聞部やゆうきまさみ究極超人あ〜る」の光画部新城カズマ「サマー/タイム/トラベラー」のプロジェクトもそうだし、わかりやすいのは木尾士目げんしけん」の現視研。文科系サークルでの平凡な日常+恋愛を描くことにより、「ああ、俺もこんなふうな生活送りたかったなぁ」と過去をやり直したくなるわけだ。
 こういった「サークルもの」、読者に3種類の効果を与えると考える。
1.過去をやりなおしたくなる。
2.もう一度過去を繰り返したくなる。
3.戻れない過去を懐かしむ。
 例えば、「げんしけん」を読んで「ああ、こういうサークルに入って荻上といちゃいちゃしたいなぁ!時間を戻ってもう一回やり直したいなぁ!ちくしょう!」というのが1の効能。
 そして、「ああ、サークル生活って楽しいよなぁ!俺も時間を戻ってもう一回サークル生活送りたいなぁ!」、と過去をやり直さなくても(=同じ内容でいいから)もう一回サークル生活を送りたくなるのが2の効能。ポイントは「やり直さなくてもいい」というところ。やり直したい過去があっても受け入れている状態。
 最後は「ああ、俺にもこんなサークル生活あったなぁ!懐かしいなぁ!」とノスタルジィに浸るのが3の効能。この場合、すでに「過去には戻れない」ことを自覚している状態。
 アニメ版映画「時をかける少女」のテーマのひとつとして、「やり直せるけども、選んだ人生は1本のルートしかない」ということが挙げられると思う。物語を「自分以外の物語」としてメタに見た場合、複数のルートと複数の結末が存在する。しかし、自分が主人公の場合、例え選択肢をやり直せるとしても、結果的に人生は1回しかないわけである。思うに、年をとるにつれ効能が1から2へ、2から3へと移っていくんだと感じる。「サークル生活」を終わったばかりであれば「もう一回やり直したい!」と思うだろうし、社会に出てしばらくすると「同じ内容でもいいからもう一回やりたい!」と思うだろう。そしてその社会での生活にしばらく漬かると、その生活で満足するから「過去にそういうことがあったなぁ」と思う、というわけである。
 つまり、「過去の過ちも全部ひっくるめて、今の自分になっている」と「悟る」ということ。
「時をかける」というテーマが普遍的に、それこそ「消費されずに」使い続けられているわけは、ただ単に「過去をやり直したい」と思う気持ちからだけではないのではないか、と思った。

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