『理不尽のみかた 1』(柳原望/花とゆめCOMICS)

理不尽のみかた 1 (花とゆめCOMICS)

理不尽のみかた 1 (花とゆめCOMICS)

 見方変われば、世界は味方に…!?
(本書カバー裏表紙より)

 主人公の佐倉縁(30)は検察審査会事務局勤務の裁判所事務官です。実は就職後3年間は「棚橋縁」で、いっしょに採用試験を受けて一緒に裁判所に就職したものの突然「ほかに好きな人ができた」との理由で離婚を言い渡されたという理不尽を抱えたまま日々を過ごしています。「あなたの道理はわたしの理不尽」そんなある日、アパートの隣の部屋に日本オタクのイギリス人が引っ越してきて……。
 検察審査会という制度は、検察官のみが有している公訴権(刑事事件について裁判所に審理を申し立てる権利)について、その不行使を無作為に選ばれた国民によってその判断の妥当性を審査するための機関です(参考:検察審査会 - Wikipedia)。日本では2009年に国民の司法への参加を目的とした裁判員制度(参考:裁判員制度 - Wikipedia)がスタートしましたが、作中でも強調されているように、検察審査会はそれよりも60年以上前(1948年設立)に設立された、司法権の行使・不行使に国民が参加することを目的とした制度です。とはいえ、最近では小沢一郎政治資金規正法違反事件によって名前を聞くようになった制度、という認識のほうがむしろ一般的かもしれません。
 で、本書の主人公である佐倉縁は、その検察審査会を担当する事務局職員です。検察審査会は捜査資料と申立人からの申し立て資料を元に審査員が不起訴処分について当不当の判断を下すことになりますが、事務局職員はその判断が公正に行われるように準備を整えなければなりません。「事務局職員は空気となるべし」それは公正を期するためにとても大切な心構えですが、離婚によって理不尽を流して飲み込んだまま生きている縁にとって、どちら側にも入れ込まずに淡々と事件を処理するという仕事は、むしろ性に合っていたのかもしれません(もちろん、煩わしかったりめんどくさかったりするあんなことやこんなことはあるわけですが)。
 それが、思わぬ隣人との触れ合いによって変化することになります。つきつめれば、人とのコミュニケーションはすべて異文化コミュニケーションだといえます。極端なコミュニケーションによって、他者とコミュニケートすることによる当たり前の喜びとかを思い出して過去を吹っ切って、再び他者の気持ちとアクセスするだけのメモリを回復していって、そうすると「空気でいること」が少しずつ難しくなって、でもでもそこからがこの仕事の面白いところで……といったお話です。
 「申立第1号」では検察審査会制度についてとその事務局職員の仕事と、そしてイギリス人アンドリューこと安藤くんとの出会いが。「申立第2号」では「空気でいること」と自分の見方との折り合いの付け方。「申立第3号」では審査員の選定方法についての理不尽と道理が。巻末の「谷崎さんの見方」では、とっても残念なイケメン弁護士谷崎さんの意外な一面と意外でない一面が描かれています。「1」と巻数番号が振られている以上、是非とも続きが読みたいです。オススメです。
【関連】『検察審査会の午後』(佐野洋/光文社文庫) - 三軒茶屋 別館