小説トリッパー2012年9月30日号〈特集〉「ライトノベル最前線」を読んでの雑感

小説 TRIPPER (トリッパー) 2012年 9/30号 [雑誌]

小説 TRIPPER (トリッパー) 2012年 9/30号 [雑誌]

 見出しの通り、「小説トリッパー」2012年9月30日号〈特集〉「ライトノベル最前線」を読んでの気ままな雑感をば。

[インタビュー]新城カズマライトノベルは書物を超えるか?」

 『ライトノベル「超」入門』にて、”ライトノベルは「手法」である”としている新城カズマライトノベル観点に基づいて、ライトノベルの今までとこれから(予想)について語られています。
 インタビュー内にて、”ライトノベルと一般小説の隙間、私の言葉で言えば「ゼロジャンル」(中略)がきっちり認識されているかというと、まだされていない。その隙間がきっちり認識されているかというと、まだされていない。呼ぶ言葉も決まっていない。レーベルができれば、認知されるかもしれないですね。(本誌p8より)”とあるのですが、レーベルとしてはメディアワークス文庫が一応それに該当するのではないかとも思うので、そこは触れて欲しかったです。
 「”紙”の先を行くアメリカのコミック」というパラグラフでは、ライトノベルを「書物を超える端緒」として捉えつつ、アメリカのコミックの例に触れながら、電子メディアとの関係とか音声認識とヴォーカロイドとの関係とかについて言及されています。伊藤計劃『ハーモニー』にて描かれているような、”死んだメディア”としての意義を書物に抱いている私のような人間にはいまいちイメージしづらい将来像なのですが、一過性のものとしてはそういうものも実現するのかなぁ、とぼんやり思ったりもしています。

[インタビュー]川原礫「所詮は……にならないために」

 TVアニメ化もされている『アクセル・ワールド』『ソードアート・オンライン』の2大シリーズをヒットさせている川原礫のインタビューです。
 個人サイトで発表していたオンライン小説が『ソードアート・オンライン』として刊行されたという経緯から、オンライン小説を書いてた頃の活動などに触れつつ、2大ヒットシリーズの設定や着想の舞台裏について語られています。ゲームと小説との関係、ゲーム小説についてなど、短いながらも興味深い言及がされていますのでそれなりにオススメではありますが、”(前略)出てくるヒロインがみんな主人公を好きになることに理由はつけてませんから(笑)。どっちの作品もヒロインは主人公のことが無条件に好きで、主人公を一切批判しない。そこは割り切っていますね。(本誌p16より)”といったくだりは読まなかったほうがよかったかもしれないと思ったり(苦笑)。

すべてがライトノベルになる 宇佐見尚也

 ライトノベルの基本的な枠組みを”主として(アニメやマンガ、ゲームに親和性の高い)若年層を対象とした、主に文庫形態で発行されるイラストのついた小説群(本誌p17より)”としつつ、ライトノベル出身作家が一般文芸でヒットを飛ばしているケースや講談社BOXといった文庫系でないレーベルやアルファポリスといったウェブ小説の書籍化を専門に行うレーベルといった外形面と、はたまた「キャラクター小説性」に着目したライトノベル的感受性の受容といった内容面との両面からライトノベル的なものが取り込んだり取り込まれたりしている現状がまとめられています。

ラノベソーシャルゲームの微妙な関係 飯田一史

 ビジネスとしてのライトノベルについて、出版不況にあって数少ない右肩上がりの選手であるラノベの現状を踏まえつつ、これからの課題としてソーシャルゲーム(ソーシャル・フィクション)との関係について述べられています。
 思うに、ゲーム小説というのはラノベにおける1大ジャンルといっても過言ではないでしょう。で、ソーシャル的なゲームとして振り返るに、PBMやTRPGやTCGといったものを題材としたラノベが思い浮かぶわけですが、これらのラノベは様々な遊び方が想像されるゲームにおいてひとつの可能性を物語として提示することで、その読者をプレイヤーとしてゲームに引きこむ役割を担っている……ということになるのかな? 正直、ソーシャルゲームなるものにまったく手をつけていない私のようなものには、こうした過去のゲームとラノベとの関係に例えないとピンとこないのが悲しいところです(涙)。
 この場合、いわゆるリプレイとの関係はどうなのかな? とか、読者とプレイヤーとの間には意外と厚い壁があるような気がするけどな? とか思いますし、それ以前に、やはり”死んだメディア”であるからこその書物だと思っている私のような者にはどうにも馴染めない理屈ではあるのですが、そんなこといつまでも言ってると知らないうちに時代に取り残されてしまうかもしれませんし……。いやはや何とも……。

ブックガイド 編集部推薦「今これだけは絶対に読んでおきたいライトノベル8選」

 紹介されてるのは三上延ビブリア古書堂の事件手帖』じん(自然の敵P)『カゲロウデイズ』川原礫ソードアート・オンライン西尾維新化物語田中ロミオ人類は衰退しました』吉野匠『レイン』柳内たくみ『ゲート』冲方丁マルドゥック・スクランブル』の8作。こんなに手広くカバーしないといけないとは、ラノベ読みの方は大変ですね(小並感)。