『魔法少女育成計画』(遠藤浅蜊/このライトノベルがすごい! 文庫)

魔法少女育成計画 (このライトノベルがすごい! 文庫)

魔法少女育成計画 (このライトノベルがすごい! 文庫)

「そもそも魔法少女ってなに……?」
魔法少女魔法少女ぽん。テレビとかで見たことないぽん?」
「だからどういうものなのかって……」
「魔法の国から授かった魔法で人を助ける女の子ぽん」
「原理とか理屈とか……魔法の国の目的とか……」
「テレビとかで見たことないぽん?」
「だから……」
(本書p25より)

 ソーシャルゲーム魔法少女育成計画」をプレイしていると、何万人かに一人の割合で本物の魔法少女になることがある。都市伝説とされているそんな噂は本当だった。「魔法少女育成計画」によってN市には16人の魔法少女が誕生した。魔法の力を得た彼女たちは人助けを行うなど充実した日々を過ごしていた。そんなある日、「増えすぎた魔法少女を半分に減らす」という通告が一方的になされる。脱落するのは一週間に一人。かくして、魔法少女たちによる苛酷なサバイバルゲームが始まる……といったお話です。
 設定的には「魔法少女まどか☆マギカ」+「バトルロワイヤル」といったお話です。基本的には、人助けによって得られるキャンディーの量を競うのですが、そのキャンディーを強奪すればわざわざ人助けなどせずとも生き残ることができます。さらにいえば、直接殺してしまえばより手っ取り早いです。なので、生き残るために積極的に打って出て仕掛ける者もいる一方で、キャンディー獲得だけで生き残りを図る者もいれば、争いをやめるよう説得に回る者もいたりと、戦い方は人それぞれです。
 16人の魔法少女たちについて、それぞれの事情や背景など描かれてはいるものの、その書き分けについて然程筆が割かれているわけではありません。それでも読みやすさが損なわれていないのは、イラストというビジュアルによる書き分けが冒頭から既になされているからでしょう。そういう意味で、ライトノベルらしい手法を存分に活かした作品だといえます。また、そうしたシンプルな描写は、魔法少女たちが次々と”脱落”していく本書の展開にもマッチしています。
 魔法少女たちはそれぞれ魔法によって強化された身体能力の他に、魔法を一種類使用することができます。その魔法は魔法少女によって様々で、直接的な戦闘に向いているものもあれば、サポート向きのものもあって、さらには戦闘よりも騙し合いに向いたものもあれば、使ってみないとどんな効果が分からないものもあったりと本当に多種多様です。一見すると戦闘向きではない能力が、実は意外と強力だったり思わぬ使い方があったりと、単純にバトルものとして面白いですし、先の読めない展開にはサスペンスとしての面白さがあります。
 何ゆえ魔法少女なのか? とも思うのですが、本来人助けを目的とするはずの魔法少女たちが、他人のためでなく自分が生き残るために魔法を使ったらどうなるのかという思考実験的な面白さはあると思います。あるいは、同じグループに属するアイドルたちが総選挙やじゃんけん大会などで競い合っているのと何となく共鳴しているようにも思います。
 本来であれば世界を守るために戦うはずの魔法少女たちが、自分自身が生き残るために魔法を使い、そうして生き残った魔法少女が最終的に行き着く生き方とは……。”いかにしていたいけな少女達を殺すか(本書あとがきp283より)”という反社会的なコンセプトで描かれたお話ですが、それでいて社会との折り合いもそれなりについているのが面白いです。オススメです。
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