『堀アンナの事件簿』(鯨統一郎/PHP文芸文庫)

(哀しんでばかりはいられない。いい方に考えなきゃ。そうよ。パパとママは天国で幸せに暮らしている)
(本書p9より)

 本書は、2008年に理論社から刊行された『ABCDEFG殺人事件』が改題されたものです。なので、目次も「Aは安楽椅子のA」「Bは爆弾のB」「Cは地下室のC」「Dは電気椅子のD」「Eは英語のE」「Fは不感症のF」「Gは銀河のG」とアルファベットつながりの連作ミステリ短編集となっています。
 もしも『ABCDEFG殺人事件』のタイトルで本書を手に取っていたらまた違ったのかもしれませんが、『堀アンナの事件簿』というタイトルに惹かれて本書を手に取った身としては、期待はずれだったというのが正直な感想です。というのも、『堀アンナの事件簿』というタイトルから明らかなように、本書は堀アンナ=ポリアンナ愛少女ポリアンナ物語をモチーフとしています。
 で、ポリアンナといえば何といっても「よかった探し」なわけですが、本書ではタイトルで謳われている程に印象的な「よかった探し」が行われているわけではありません。これは個人的に大きなマイナスポイントです。何ゆえ印象に残らないのか理由を考えてみますと、そもそもミステリというジャンル自体が「よかった探し」を前提としているからだと思います。
というのも、ミステリではまず殺人事件という最悪の事態が発生します。その上で、論理的思考によって謎が解き明かされたり、あるいは真実が明らかとなったり、殺人犯が捕まって法の裁きを受けたりといったカタルシスが得られることで読者が満足するジャンルですこれぞまさに「よかった探し」といえるでしょう。であるからには、ミステリにおいて所与のものである「よかった探し」を印象付けようとすれば、それなりの工夫が求められるのも当然だと思います。本書はそうした方向への作意が不十分なことは否めませんし、『堀アンナの事件簿』というタイトルから想像されるような内容を期待して読むとションボリです。ただ、ミステリと「よかった探し」の関係を考える契機として参考になる本ではありました。
 「よかった探し」を別にしますと、トリックや真相などにミステリとしての面白さは確かにあります。ですが、その謎解きが堀アンナが持つ異能頼みで推理の面白味が堪能できない点があまりオススメできなかったりします。
 総じて、『さよなら絶望先生』のネタの凄みを再認識させられた一冊でした。
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