絶妙な距離感。亀井薄雪『桃栗三年』

桃栗三年 (リュウコミックス)

桃栗三年 (リュウコミックス)

 亀井薄雪による初単行本です。
 プラモデル大好き女子大生・桃瀬みすずと遅筆な小説家・小栗が、本屋に行ったりドライブしたり鍋をしたりとまったりとした日常を過ごすというお話で、それ以上でもそれ以下でもないなんともまったりとした漫画です。
 お世辞にも描きこんでいるといえない脱力した筆致がまた良い雰囲気をかもし出しています。
 特筆すべきは、二人の絶妙な距離感です。
 二人はアパートの隣人同士なのですが、小栗は一服、桃瀬はプラモデルの塗装と各々がベランダでそれぞれの時間をすごします。そしてその「各々」が一致したときに起こる、ベランダ越しの二人の時間。

 はたまた、ドライブでの何気ない会話。

 お互いが向き合うわけでもなく、それでいて会話や意思がきちんとキャッチボールされているやりとりは、読んでいて「ニヤニヤ」の二歩ほど手前にある「恋愛感情が生まれる前の小さな小さな萌芽」を感じさせ、心がほっこりします。
 誤解を恐れず言うならば、「文科系の距離感」とでもいうべき絶妙な距離感なのです。
 劇的なイベントも劇的なラブもない、だからこそ大事にしたいやさしい空気を持っている作品です。
 漫画を読んで何かを得たいという方には胸を張ってはお勧めできませんが、読んだ後にふわっとした何かが残る佳品だと思います。