『スカイ・ワールド』(瀬尾つかさ/富士見ファンタジア文庫)

スカイ・ワールド (富士見ファンタジア文庫)

スカイ・ワールド (富士見ファンタジア文庫)

「現実だろうがそうでなかろうが、ここはひどく悪趣味なゲームの中だ。この世界をつくった人物がなんであれ、ひどく狂っている。そんな狂った世界に触れることができるなんて、嬉しいじゃないか。クエストはその手段のひとつにすぎない。……最高だ。クエストをつくったやつがなんであれ、そいつがひどい狂気に侵されていることだけは間違いないんだから」
(本書p92より)

 MMORPGそっくりの世界に現代人が飛ばされて、冒険する。本書はそんなお話ですが、あとがきでも述べられている通り、すでにあっちこっちで扱われている題材でもあります。それだけ人気のあるテーマということが言えますが、それだけに、他との差別化を図るのが難しいテーマであるとも言えます。
 例えば、先行作品である『ソードアート・オンライン〈1〉』(川原礫/電撃文庫)と比較した場合、まず、本書ではゲーム内での死=リアルでの即死ではないということを真っ先に挙げることができます。本書のゲーム世界であるスカイワールドで死を迎えると、タブレットのバッテリーが40パーセント減少するというペナルティが課せられます。タブレットのバッテリーは放って置けば一日に1パーセントの割合で回復するので、三回連続してしななければゼロになることはありません。そして、バッテリーが0になったときになにが起こるのか? 試してみた人物はいますが、そのキャラは装備品だけを残したままホームポイントに戻ってくることはありませんでした。果たして現実世界に戻ったのか?それとも本当に「死んで」しまったのか?それはゲーム内のプレイヤーたちには不明なままですが、いずれにしてもゲーム内の死は絶対的な死ではありません。
 死が絶対的なものではないことから、いわゆるデスゲームのような緊張感に欠けるのは否めません。ですが、そもそもゲームというのはそういうものでしょう。ゲーム内の死=リアルの死であれば、何もMMORPGの世界といった設定を謳う必要などなくて、そのままファンタジー世界の物語にしてしまったほうがよいのでは? といった見方だってあることでしょう。
 他にも、本書ではオートモードでの連続攻撃からマニュアルモードへの切り替えやスキル・クエストといったゲーム性が強く意識された設定となっています。チェイン・ヒールやボトラー、オムツァー、カイティングといった単語が自然に出てくるのが本書の面白さです。とはいえ、そんなにマニアックな方向に走っているわけでもなくて、その辺の匙加減は絶妙です。
 本書の主人公ジュン、かすみ、エリ、そしてカイ。彼らはそれぞれにゲームを楽しみ、冒険に挑み、そして成長していきます。MMORPGならではの人間関係の妙。限りなく現実に近いゲームであるが故のPKの重み。そして謎の少女アリスがほのめかす”蒼穹の果て”とはいったい何なのか。いずれにしても、ゲームも物語もまだまだ序盤です。続巻に期待です。