『赤鬼はもう泣かない』(明坂つづり/ガガガ文庫)

赤鬼はもう泣かない (ガガガ文庫)

赤鬼はもう泣かない (ガガガ文庫)

「そんなの気にすることないしね。自分が友達だって思えば胸張ってそう言えばいいしね。いちいち相手の了承得てたら、いつまでたっても友達なんてできなしいね!」
(本書p75〜76より)

 第5回小学館ライトノベル大賞審査員特別賞受賞作。
 女子の二の腕をなめてしまったヘンタイ中学生(?)西遺大豪は、地方の学校へと転校させられる。奇妙な担任やクラスメイトばかりの学校生活の中でもっとも奇妙で興味をひかれるのが隣の席の女生徒・喪庭ここめ。彼女に指チュパされてから、彼と彼女の日常は大きく動き出す……といったお話です。
 『赤鬼はもう泣かない』というタイトル的には『泣いた赤鬼』が想起されるのですが、応募時のタイトルが「ここめが生き肝を食べた。」であることからも分かるように、元ネタあるいはモチーフといえるほどの関連性はありません。とはいえ、人と鬼との共存という背景自体は共通です。
 目の前に座っている少女の頭に突然どこからともなく矢が刺さります。そのまま少女が死んでしまえばミステリということもあるかもしれません。ところがその少女が血が吹き出ているにもかかわらず死なずにいるとして、果たしてこのシチュエーションがギャグとなるのかそれともホラーとなるのか。その境い目を理屈で説明しようとするとなかなか難しいと思うのですが、ひとつの考え方として、その少女の痛みに共感できなければギャグとなり、共感できたらホラーということになる、ような気がします。
 本書は、そうした作品内のジャンル的変化とでもいうべきものが、主人公の内面的変化とシンクロするかたちで生じています。あるいはそれは逆で、主人公の成長が作品内の世界観を変容させた、というべきなのかもしれません。いずれにせよ、そんなギャグからホラーへの切り替わりが読みどころです。
 ギャグとホラーの通奏低音として「理不尽」や「不条理」があると思います。本書は、そうした「理ならざるもの」と対峙して「理」を得るためのお話だといえます。もっとも、「理」といってもしょせんは閉鎖的な村が舞台のお話ですし、「理」といえるほどきっちりとしたものでもないのですが、落ち着くところに落ちが着いたお話です。