『冷蔵庫探偵 1』(作:遠藤彩見・画:佐藤いづみ/ゼノンコミックス)

冷蔵庫探偵 1 (ゼノンコミックス)

冷蔵庫探偵 1 (ゼノンコミックス)

わかるのよ 冷蔵庫を見ればね

 冷蔵庫を覗き見て、持ち主の性格や環境を想像する――それが「冷蔵庫探偵」♪冷蔵庫に現れる人間の「素」の部分――本人すら気付いていない想いを冷蔵庫探偵が華麗に導き出す!!冷蔵庫×謎解き♪美味しい新感覚ミステリー☆と裏表紙にあるとおりの内容です。「オビには史上初!? 冷蔵庫×謎解き★プロファイリング・ミステリー♪」とありますが、確かに、グルメな探偵が活躍するミステリというのはいくつかありますが、冷蔵庫に特化したプロファイリング・ミステリというのは初めてかもしれません。
 ただ、個人的には、「○○を見ればその人のことがわかる」というようなプロファイリングには警戒心を持って接することにしておりまして、それというのも、今の若い人にはピンとこないかもしれませんがその昔、東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(参考:東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件 - Wikipedia)という陰惨な事件がありまして、その犯人が捕まった際、自宅のホラービデオやらが積み重なってる様子が報道されて「こういうものばかり見てるからこういう犯罪を犯すようになる」といった論調が幅を利かせたことがありまして、それ以来、ことプロファイリングについては慎重に接することにしております。
 とはいえ、本棚やビデオと冷蔵庫とでは完全に、とまではいいませんが、かなりの違いがあるのは確かでしょう。冷蔵庫からはその人の食生活をうかがい知る事ができます。食生活を知ることができるということは、生活のパターンやレベルを知ることにもつながりますし、その人の食べ物についての好き嫌いや体調なども知ることができます。食事の時間というのは社交の時間でもありますし、そういう観点からすれば人間関係をうかがい知ることもできます。また、冷蔵庫だけでなくその持ち主ともしっかりと向かい合っています。なので、単なるプロファイリングではありません。
 本書の主人公、蔵前怜子*1は31歳(独身)のケータラー。呼ばれたらどこにでも行くさすらいの料理人で、以前に付き合っていた恋人の冷蔵庫に他の女の影を気付かずに見逃していたために別れてしまったという過去から、他所の冷蔵庫に興味を持つようになったという悲しい冷蔵庫探偵ですが(笑)、漫画ゆえの絵柄の明るさと、ワトソン役として怜子の助手を務める刑事・リョウ*2の抜けてるけど前向きな性格もあって、優しくほがらかなお話となっています。
 本書に収録されているのは「ショウガ葛湯と夫婦仲」「人気モデルのシイタケスープ」「贖罪のチェリージュピレ」*3「チョコレートムースの効用」「にごり酒とタコの水煮」の5話です。冷蔵庫探偵だけに冷蔵庫を見ないと話にならない点にお話作りの上での苦労が感じられますが、5話中3話が恋愛ものなのは、冷蔵庫探偵というと聞こえはいいものに実際には所帯染みたものであることの証左であるといえるのかもしれません(笑)。また、第2話「人気モデルのシイタケスープ」からは冷蔵庫探偵の世知辛さが表れています。全体的に地味なお話のなかで第4話「チョコレートムースの効用」は殺人事件の関係者が泊まっていたホテルの冷蔵庫からプロファイリングを行なうというミステリ色の強いものとなっています。
 冷蔵庫探偵としてプロファイリングを行ない真相を明らかにした上で、料理人として腕を振るうことで事件を解決する。物語のパターンはだいたいこんな感じですが、なかなか応用が利くもののように思います。続きを楽しみにしたいと思います。
【参考】
「あなたの冷蔵庫の中身を見せてください」食生活が見えてくる比較写真いろいろ:らばQ
はじめの1巻:「冷蔵庫探偵」 冷蔵庫の中身で事件を推理 優しさあふれる謎解きミステリー - MANTANWEB(まんたんウェブ)

*1:「れいぞうこまえ」のアナグラムですね。

*2:本名:真名部涼。おそらく、真名部=学べ、という意味ですね(笑)。

*3:贖罪と食材が掛かっているのが上手いと思ったり。