薄めきれない「らしさ」 道満晴明『ヴォイニッチホテル』
- 作者: 道満晴明
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2010/11/19
- メディア: コミック
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タイトルの「ヴォイニッチ」とは実在する解読不能な奇書のことです。
●解読不能の奇書「ヴォイニッチ手稿」の年代が特定される - GIGAZINE
道満晴明は主に成人漫画にフィールドを置いている漫画家ですが、どぎつい毒とセンスのある言葉やテンポのよさがフジモリは結構好きです。
本マンガは初の一般向けオリジナルマンガということで、毒もエロもグロもかなり薄めてありますが、それでも薄めきれない作者の「らしさ」が溢れています。
太平洋南西に浮かぶ小国・ブレフスキュ島。
その小さな島のホテルが舞台。
陽光降り注ぐのんびりした南国ムードの中、エキセントリックな宿泊客達が織りなす悲喜交々人間ドラマ。
(裏表紙より)
というお話です。リゾートホテルを舞台にした癒しの物語、という言葉だけだとなんだかロハスな感じがしますが、登場人物たちは一癖も二癖も三癖もあるような人たち。というより、まともな人は一人も出てきません。
どこかしら頭のねじが外れていたり、社会的なマイノリティやアウトローだったり、そもそも人間じゃなかったりと、非常にカオス。SFやオカルトやラブコメがこれまたカオスにてんこ盛り。
そしてそのカオスが非常に道満晴明っぽいのです。
そんな登場人物たちが繰り広げる、1話ごとに物語の主人公が変わる群像劇。ときに交わり、ときに交わらずにすれ違う。前の話の主人公が容赦なく死ぬこともしばしば。エロもグロもあるのですが、作者独特のタッチで描かれるキャラクタたちは、どこか陶器の人形を思わせる「非・人間さ」があり、なんというか「なまなましさ」があまりないように思えます。
物語としても、登場人物たちの人間ドラマという横軸と、この島やこのホテルにまつわる「伝説」という縦軸が絡み合い、続きが読みたくなるストーリー展開でした。
「このマンガが気に入った方はぜひとも『ぱら☆いぞ』を!」と胸を張ってそのほかの作品を薦めるには、やや口はばかれる作者かもしれませんが(笑)、こっそりオススメしたい一冊です。