『雲上都市の大冒険』(山口芳宏/創元推理文庫)

雲上都市の大冒険 (創元推理文庫)

雲上都市の大冒険 (創元推理文庫)

 第17回鮎川哲也賞受賞作品です。

 文庫のフロントページに記された、”独特なキャラクター造形と、驚愕の脱出トリック”。これ、本当です。嘘も掛け値もありません。だからお読みなさい。
(本書巻末所収、辻真先の解説p437より)

 バカミスktkr(笑)。
 昭和七年。”雲上の楽園”と称される四場浦鉱山の地下牢に監禁されていた男は二十年後の脱獄と復讐を予告する。それから二十年。予告どおりに男は牢から姿を消し連続殺人の幕が上がる。事件解明のために、眉目秀麗で気障な肉体派探偵・荒城と近未来的な義手を持つ頭脳派探偵・真野原が事件の謎に立ち向かうが……といったお話です。
 確かに独特なキャラクター造形といいますか、個性的な探偵二人の活躍が目に付きますが、読み終わってみればそんな印象はどこかに吹き飛んでしまいます。というのも、それだけ地下牢からの脱出トリックと犯人の”作られ方”がぶっ飛んだものだからです。探偵のキャラクターがケレン味たっぷりなのも、それを上回るトリックのケレン味に合わせたものだと考えれば納得です。
 そのトリックも、バカミスといってしまえば聞こえはいい(?)ですが、一目無理筋ではありますが、そこはそれ。無理でもなんでも通してしまうのがミステリにおける論理の役割です(コラコラ)。加えて、題名に「大冒険」と銘打つことで活劇ぶりを主張しているのも巧みというか世渡り上手だといえるでしょう。
 そんな奇想が本書の魅力であり好みが分かれそうな点ではあるのですが、全体的な物語の雰囲気自体はそんなにはっちゃけたものではなくて、むしろ昭和七年という時代背景・生活感というものが堅実な描写で描き出されているといえます。ひとつには、文庫版あとがきで明かされていますが、本書の舞台である雲上都市・四場浦鉱山にはモデルとなる鉱山が実在し(【参考】松尾鉱山 - Wikipedia)、それを基に描かれているというのがあるでしょう。だた、それを差し引いても、鉱山で暮らしたり働いたりしている人たちの暮らしぶりや苦悩などが程よく描かれています。そうした堅固な基盤があるからこそ、奇想あふれるアイデアをトリックとしても物語として破綻することなく成立させることができたのだといえるでしょう。
 雲上都市という名前から想像される幻想的な雰囲気とは無縁の生活臭に溢れる都市を舞台とした奇抜なミステリです。おおらかな気持ちでお読みになることをオススメします。