前島賢『セカイ系とは何か −ポスト・エヴァのオタク史−』ソフトバンク新書

セカイ系とは何か (ソフトバンク新書)

セカイ系とは何か (ソフトバンク新書)

セカイ系とは、『新世紀エヴァンゲリオン』以後を指し示す言葉に他ならない。アニメ、ゲーム、ライトノベル、批評などなど---日本のサブカルチャーを中心に大きな影響を与えたキーワード「セカイ系」を読み解き、ポスト・エヴァの時代=ゼロ年代のオタク史を論じる一冊。
(裏表紙より)

 タイトルは『セカイ系とは何か』とありますが、フジモリの率直な感想は、「「セカイ系」という現象は何だったのか」でした。
 本書では、1995年の『新世紀エヴァンゲリオン』から始まった「セカイ系」と呼ばれる一連の作品群について分析しながら、「セカイ系」という「現象」そのものを論じています。
 「セカイ系」とは端的に言うと、「エヴァっぽい作品」であり、それはまた、主人公の自意識と一人語りがメインの「後期エヴァ」を指し示します。著者は、「セカイ系」という言葉の起源と代表作について掘り下げ、「セカイ系」という言葉そのものが実体を持たない、曖昧もことしたキーワードであることを指摘します。
 実際、著者も論じていますが、「セカイ系」の代表ともいえる作品群、『最終兵器彼女』『ほしのこえ』『イリヤの空、UFOの夏』は、セカイ系の特徴とされる「男子完全傍観(=戦う少女)」「戦争」「社会の中抜き」という要素の全ては満たしてない、という、いわゆる「これが完璧なセカイ系」という作品ではないのです。
 セカイ系の代表作ですらセカイ系の要素を十全に満たしていないのですから、セカイ系という言葉がいかに曖昧で言葉とニュアンスだけが一人歩きしているかがわかるかと思います。
 著者は、セカイ系という言葉そのものが「揶揄を含んだ言葉」と指摘します。こういった、「セカイ系」という言葉に対する客観的な分析は意外と少なく思っていましたので、こうやって「セカイ系」を巡る歴史を記しているのは非常に為になりました。
 また、「セカイ系」はなぜ廃れたのか、という問いに、「セカイ系はシリーズ化、延命化しにくい」という論点で語るなど、「なるほどなー」と思わせます。
 「セカイ系」という「現象」を軸に、エヴァンゲリオンから現代のオタク文化までを分かりやすく記しており、「オタク史」としても「セカイ系論」としても有用な良書だと思います。
 そろそろ「「エヴァ」を観ずに最初に「ヱヴァ」を観た」などという「♪「セカイ系」を知らずに僕らは生まれたー」な消費者もでてくるでしょうし、「セカイ系とは何だったのか」と振り返るにはうってつけの一冊だと思います。おすすめです。