『ひきこもり探偵おにいちゃんとマコ』(石田敦子/バーズコミックス)

ひきこもり探偵おにいちゃんとマコ (バーズコミックス)

ひきこもり探偵おにいちゃんとマコ (バーズコミックス)

お兄ちゃんは探偵になるためにひきこもったんだね

 ひきこもりと安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)を結びつけた作品としては、坂木司『青空の卵』から始まる”ひきこもり三部作”を想起される方も多いかと思います。実際、話の大筋・テーマの共通性としてはかなり共鳴している部分がありますので、興味のある方は読み比べてみるのも一興でしょう。
 とはいえ、”ひきこもり三部作”とは異なる点もかなりあります。もっとも大きな違いは、本書の探偵役である「おにいちゃん」こと江戸川光一は本当のひきこもりである点です。家から出ることもまったくなければ部屋から出ることもほとんどありません。部屋の中には誰も入れません。単に他人と付き合うのが苦手とかいうレベルではない正真正銘のひきこもりです。そのため、探偵役=おにいちゃん、行動役(兼ワトスン役)=妹ことマコ、という図式がはっきりとしています。探偵役が本格的なひきこもりなので情報収集も基本的にはマコの担当となりますが、現代はインターネットという便利な道具があります。ネット検索やぐんぐるMAP(いわずと知れたグーグルMAPのこと)などを使えばひきこもりながらにして様々な情報や知識を手に入れることができます。
 加えて強調しておきたいのは、本書の雰囲気が全体的にコミカルなものであるという点です。主人公が9歳のマコという可愛くて明るくて無邪気で、それでいて頭のよい女の子なのが利いてます。マコはひきこもったおにいちゃんとの接点として、おにいちゃんに探偵役を求め、そして自身にはワトスン役を課しました。そうしておいて、様々な困りごとをおにいちゃんに持ってきてはおにいちゃんに解決してもらうのですが、そうこうしてるうちに「おにいちゃんはひきこもってなきゃ駄目!」という結論に落ち着いてしまいます(笑)。まさに本末転倒ですが、でもそれが本書の”優しさ”でもあります。こうした関係性が最終話においてどのように変化していくかが本書の一番の読みどころです。
 本書の謎解きはどれもそんなに複雑なものではありません。ですが、そうした論理的ながらも説得力ある思考が引き立て役となることによって、最後の最後で語られるシンプルな決断に説得力が生まれているのだと思います。ひきこもっているからひきこもりなのではない。本書を読んでいただかないと分かりにくいかもしれませんが、でも、言われてみればもっともです。
 一巻完結という読み易さも含めて、ミステリ読みにこっそりオススメな一冊です。
【参考】石田敦子の新作 「ひきこもり探偵おにいちゃんとマコ」 : アキバBlog