『バカが全裸でやってくる』(入間人間/メディアワークス文庫)

「だって小説って一字一句、作者の妄想から生まれたものですよ。隠しようがない心の奥にある、現実への不満、理想の世界をぶちまけているわけです。赤裸々な告白大会ですよ」
「……ふむ」
「自意識過剰な中学生あたりがそんなもの明かされたら自殺しそうじゃないですか。それに耐えて本を出し、露出狂のように喜ぶ。それが小説家の実態です」
(本書p102より)

 本書は、小説家、あるいは小説家になろうとする青年、小説家だった(?)女性が主人公の連作集です。一話一話が独立しているようでつながっていてぐるりと回るという構成は、「小説家」という本書のお題を表現するのに非常に適したものだといえるでしょう。そんな簡単に言い表せるようなものだったりしたらいろんな意味でつまらないですしね。
 単に小説を書きたいという情動だけではプロの小説家にはなれません。落ちても落ちても小説を書き続け、デビューした後も小説を書き続けることでプロの小説家として生計を立てることができます。もっとも、最近は兼業作家も結構いるみたいですし、小説家としてのスタンスも人それぞれでしょうし、誰もがこんな露出狂の変態さんということもないでしょうしね(笑)。
 森博嗣『小説家という職業』にもあるように、小説家になろうと思うのであれば、それを職業とすること、仕事とすること、ビジネスとすることを意識するというのは大切でしょう。森博嗣のようにお金を稼ぐための手法、仕事として何があるのかというのを当初からの目的として小説を書くというのがむしろ理想的なのかもしれません。
 ですが、とにかく書きたいというバカな衝動や、それを表現するための苦悩や自らの才能への懐疑やひとつの作品を書き切ったときの充実感などなど。そんなお金とはひとまず切り離した内的側面が本書では面白おかしく描かれています。
 「バカが全裸でやってくる」「ぼくだけの星の歩き方」「エデンの孤独」「ブロイラー、旅に出る」「バカが全裸でやってくる」という5つの章の間にライトノベルの新人賞に応募されたある作品の運命が幕間として語られるという構成が採られていますが、個人的に妙に印象に残ったのが「エデンの孤独」です。私などはこうして書評ブログなど細々と開いているくらいですから作品とか作品論には興味が大いにあります。その一方で、作家や作家論については、興味ゼロってわけではないですし作品論と作家論の境界はときに曖昧だったりしますが、基本的には興味があまりなかったりします*1。そんな作品と作家の関係を作家側から見ると「エデンの孤独」に描かれているような感覚で小説を書くことって結構あるのかもしれないなと思ったりしました。
 本書は小説家が主人公の小説という割には思ってたよりもメタ度が低くて普通に小説してました。入間人間読者(みーまーを読んでる程度ですが)としては少々意表を突かれましたけど読み応えはありました。幕間のストーリー含め作者自身のことじゃないのこれ?といった事柄もいくつか散見されますし(入間人間っぽくいえば、作者の小説化ということにでもなりますか・笑)、入間人間ファンには必読の一冊だと思います。