『MM9』(山本弘/創元SF文庫)

MM9 (創元SF文庫 )

MM9 (創元SF文庫 )

山本弘のSF秘密基地BLOG:『MM9』ドラマ放映決定!
 2010年7月7日からのテレビドラマ化にあわせて文庫化されました。
 『MM9』のMMとは「モンスター・マグニチュード」の略です。怪獣のサイズから予想される災害の脅威度を示したもので、怪獣の脅威度を表わす目安として使われています。そんな怪獣災害に立ち向かう気特対――気象庁得意生物対策部の活躍が描かれているのが本書です。つまり、ウルトラマンが出てこない怪獣ものなのです。
 かつて週刊少年ジャンプで連載されていた『ついでにとんちんかん』という漫画に「大怪獣ヌケゴンの巻」というお話がありまして、そのお話は怪獣漫画のパロディでしたが、「いきなり現われてヌケゴンという名前がついているのはおかしいと思います」*1というツッコミがなされています。本書では、そうした疑問に答えるかのごとく、怪獣の名前「固有名」を決める責任者の苦悩が描かれています。その他にも、怪獣ものには科学的な観点からも様々なツッコミどころが満載ですが、そうした点については「多重人間原理」などといって妖しげな(笑)SF理論によってフォローされています。本書が「本格SF」と評される所以です。
 そういう意味で、本書は一種のメタ怪獣小説ではあるのですが、しかしながら、本書は外から冷めた視線で描かれた怪獣ものではありません。愛と情熱に満ちた怪獣小説です。そのことは、何よりも本書の結末を読んだ方であればお分かりいただけるはずです。
 怪獣ものというと荒唐無稽なお話を想像される方もおられるかもしれませんが、本書はそんなことありません。気特対と自衛隊との連携、怪獣の正体を知り弱点を分析するための情報収集作業、周囲の被害を最小限にするための工夫と予算との戦い、生命保護の観点からの葛藤、怪獣の正体が不明であるが故の人道的・倫理的な問題などなど。怪獣が登場する世界の現実というものがとても丹念に描かれています。
 また、気特対で活躍する隊員たちは決してヒーローではありませんが、しかし、プロフェッショナルとして怪獣災害に対峙する姿が、これまたとても丹念に描かれています。特撮版『踊る大捜査線』という評価はまさにそのとおりです。今回のテレビドラマ化というのも納得です*2
 多くの方に広くオススメの一冊です。
【関連】
著者による『MM9』元ネタ等解説ページ
Webミステリーズ! : 山本弘『MM9(エムエムナイン)』[2008年1月]
山本弘『MM9』東京創元社 - 三軒茶屋 別館

*1:ついでにとんちんかん』(えんどコイチ/ジャンプ・コミックス)13巻p85より。

*2:ただ、ヒメが出てこないというのは少々残念ですし、お話の方もどのように手が加えられるのかも不安半分で気になります。