『クロス・リンク〜残響少女』(星野彼方/HJ文庫)

クロス・リンク~残響少女 (HJ文庫)

クロス・リンク~残響少女 (HJ文庫)

「会話は、俺と君が、それぞれそこにいることを認め合った上で成り立つ。言い替えれば、僕がここにいて、君がそこにいることの証明だ。それで充分なんだよ。会話をするのに、それぞれが同じである必要はない。むしろ違いが会話を生む。ただ、いれば、いいんだ」
(本書p209より)

 高校生の天才交渉人(ネゴシエイター)が、なんと未知の生命体による学校占拠事件の解決を依頼されることになって……といった感じの裏表紙などのあらすじに興味を持って読み始めまして、確かに最初のうちは交渉人(参考:交渉人 - Wikipedia)らしい言動や薀蓄によってストーリーは進みます。ところが、物語は途中から思わぬ方向へと向かいます。
 本書のあとがきで、「この小説のジャンルは何かと問われれば、何と答えるべきでしょうか。」という問いかけがなされています。SFであったりホラーであったりミステリーであったり。しかし、そんな風に名乗ってしまうと、本書はコアなファンには怒られてしまう代物であろうと。それはそうでしょうね。私は(自称)ミステリファンですが、本書をミステリとして他人にオススメする気には到底なりません(苦笑)。個人的には、本書はSFに分類するのが一番しっくりくるかと。もっとも、サイエンス・フィクションという一般的な意味ではなく、スペキュレイティヴ・フィクション(参考:スペキュレイティブ・フィクション - Wikipedia)という意味でのSFで、つまりは思弁小説として評価するのが妥当じゃないかと思います。
 本書の主人公の洋介は犯罪交渉人ですが、交渉相手は人間の犯罪者ではなくて異星人です。なので、通常の交渉マニュアルなどすぐに役に立たなくなってしまいます。そのため、通常の交渉では陥ったことのない事態に直面することになります。しかも、異星人は主人公である洋介の身体を乗っ取ってしまいます。そこで洋介が対峙することになるのは、本書のオビの言葉を借りれば”脳内少女”です。しかしそれは洋介にとっては大切な思い出であり、かつ、トラウマでもあります。
 己を知り相手を知り、互いの存在を認め尊重し合い、話し合うことによってwin-winの関係を築くことを目指す。こんな風にまとめてしまえば簡単なようですが、実際にはとても難しいことです。
 どの辺りが天才交渉人なのか理解できない、とか、ファーストコンタクトものとしては対応が酷すぎるだろ、とか、エヴァのATフィールドを思い出すなぁ、とか、思弁が走りすぎて小説としてのまとまりに欠けるかな、とかいろいろと思うところはあります。ですが、一人称であることが必然であるエンターテインメントを目指した点など、試みとしては非常に興味深くて面白いお話だと思います。
 ただ、個人的にはやはり犯罪交渉人(ネゴシエイター)としての活躍を期待して本書を手に取ったというのがありまして、その点については不満が残るのは否めません。次回作があるとしたら、交渉相手は奇妙奇天烈なもので構わないので、もっと主人公の内面よりも相手との交渉に筆を割いて、もう少し交渉人らしい交渉技術が堪能できるお話だったらいいなぁと思います。