『蔵書まるごと消失事件 (移動図書館貸出記録1) 』(イアン・サンソム/創元推理文庫)

蔵書まるごと消失事件 (移動図書館貸出記録1) (創元推理文庫)

蔵書まるごと消失事件 (移動図書館貸出記録1) (創元推理文庫)

 当blogでは読んで面白くなかった本・つまらなかった本は基本的にスルーすることにしているのですが、本書はあまりにも期待はずれでしょんぼりだったので特別に(笑)。
 図書館司書となるべくアイルランドの片田舎までやってきた青年イスラエル。ところが図書館は閉鎖されていて、代わりに移動図書館の司書に任命されたものの、その図書館には一冊の蔵書もなくて……といったお話です。
 本書の主人公であるイスラエルは司書としても探偵役としてもまったく未熟で右往左往してばかりです。本ばかり読んでる人間はさぞ頭がよくていろんなことを知っているのだろうと思われてるかもしれなくて、事実そういう方もおられるかもしれませんが、我が身を省みれば全然そんなことはなく役立たずの世間知らずなわけで(苦笑)、おそらくはそんな本好きの姿を主人公に仮託することでシニカルに描こうとしたものだと思われます。それはそれで構わないのですが、本書の場合はとても上手く描けているとは思えません。というのも、主人公に落ち度があるとして責めるにはあまりにも周囲の態度・対応が酷すぎるのです。巻末の解説によれば「アイルランドやそこに暮らす人々が、あふれんばかりの皮肉と愛情でもって描かれている」(本書p458より)とのことですが、だとしたら私はアイルランドには足を踏み入れたくありません。特にリンダ・ウェイの対応が酷すぎ。契約書をきちんと読まないイスラエルが悪いといえばそれまでなのでしょうが、労働基準法といった労働者保護の概念がまるでないのかしら……?
 蔵書消失というミステリ的な謎解きもそんなに魅力的なものではありません。なぜなら、イスラエルが着任したときにはすでに本はなくなっているからです。手品もそうですが、眼前から消失するからこそ消失なのです。既にないものを消失とかいわれても不思議でも意外でも知ったことでもありません。ましてやそれを「あなたの責任だから」とか言われてもね……(苦笑)。ユーモアのつもりなのかもしれませんが、だとしたら私とはまったく合いません。
 ただ、蔵書探しの推理の過程でサム・スペイドミス・マープルやピーター・ウィムジィ卿といった探偵たちが活躍する作品の言葉などがときどき引用されたりするので、ミステリとしての面白さがまったくないわけではありません。ですが、全体的には司書が主人公の割には本の話題は少なくて、蔵書が消失しているという現状では致し方のないことではあるのでしょうが、それも読後感がイマイチだった理由のひとつです。
 けち臭いことをいいますが、文庫本一冊に1000円以上を払うのに抵抗がないといえば嘘になりまして(本書は1200円+税)、そのラインを超えるからにはやはりそれなりに面白い本であって欲しいなぁと。もっとも、移動図書館(参考:移動図書館 - Wikipedia)という設定自体は面白そうなので(だから読んだのですが)、蔵書が揃って移動図書館として本格的に活動を始める2巻以降(原作は4巻まで出てるそうです。)に期待したい思いはあるのですが、少なくとも本書を読んだ限りでは、2010年夏に刊行が予定されているという2巻『アマチュア手品師失踪事件(仮)』に手を出すのは少し躊躇われるのが正直な気持ちです。