岸本佐知子『ねにもつタイプ』ちくま文庫

ねにもつタイプ (ちくま文庫)

ねにもつタイプ (ちくま文庫)

リディア・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』などの翻訳作品を手がける翻訳家、岸本佐知子のエッセイ集です。
裏表紙には

コアラの鼻の材質。郵便局での決闘。ちょんまげの起源。新たなるオリンピック競技の提案。「ホッホグルグル」の謎。パン屋さんとの文通。矢吹ジョーの口から出るものの正体。「猫マッサージ屋」開業の野望。バンドエイドとの正しい闘い方―。奇想、妄想たくましく、リズミカルな名文で綴るエッセイ集。読んでも一ミクロンの役にも立たず、教養もいっさい増えないこと請け合いです。

と書いてありますが、本当に人生の役に全く立つことのない(笑)エッセイです。
子供の頃の友達だったタオルのニグの話、ぼんやりしているときに頭の隅で「ホッホグルグル」と声がして、祖例対抗するために『チェリー・ボム』という歌を(脳内で)ぶつける話、新しいトイレットペーパーをしまおうとしたら古いトイレットペーパーが「私を先に使ってください」と訴えてくる話など、とにもかくにもくだらなく、それゆえにおもしろいお話です。
似たようなエッセイ集としてフジモリが思い浮かべるのは乙一の『小生物語』という本なのですが、日々あった出来事に妄想とフィクションを絶妙に織り交ぜ、事実なのかフィクションなのか読者を境界線にグラグラと立たせる作品でした。
この本も、子供の頃マンホールのふたを踏んではいけないと思いこんでいたという「あるある」的な話から、マイ富士山が欲しいという妄想話、はたまた会社員時代に住んだ寮で出された「うろこ魚」の話など、一度に読んだら湯あたりすること請け合いの不思議なエッセイが詰め込まれています。
また、妄想を具現化したような、クラフト・エヴィング商會の挿絵も個人的にはツボでした。
めちゃめちゃおもしろい、というわけでもなく、読んで得するわけでもない。しかしながらその「意味のなさ」が逆におもしろい、不思議な一冊でした。

ほとんど記憶のない女

ほとんど記憶のない女

小生物語

小生物語