新城カズマ『さよなら、ジンジャー・エンジェル』双葉社

さよなら、ジンジャー・エンジェル

さよなら、ジンジャー・エンジェル

15x24』、『サマー/タイム/トラベラー』の新城カズマ双葉社のwebマガジン「カラフル」で掲載していたSF小説です。
帯に「ラブストーリー×ミステリー×ファンタジー」だとか、「大人のためのハートウォーミングストーリー」だとか、これまでの新城カズマ作品では見られなかった煽り文句なのですが(笑)、あにはからんや、確かにこれまでとは打って変わった印象を受けました。

むずがゆさから目が覚めたとき、彼は自分が死んでいることに気が付いた。
――杉並区馬橋南署勤務の警察官・泊司郎は、工事中のマンションの前で急に目覚める。ところがその時、彼の手元からは警察手帳も拳銃も失われていた。そして自分の命も……。
なぜ自分は死んでしまったのか、そしてなぜ幽霊になってまでここに留まっているのか? 不可思議な疑問に捕らわれつつも、やがて彼は自分の成すべきことを知りはじめる。
双葉社webマガジン「カラフル」より

というあらすじのとおり、ややラブ色を前面に押し出しています。とはいうものの物語の軸足は「幽霊による(警察)小説」の部分だと思います。
自らを幽霊だと悟った後、司郎は<シキイ>の世界の「ルール」を覚えていきます。
某blogで話題になっていましたが、「ゼロ年代」の作品の特徴の一つに「ルール」が大きな要素として存在するという意見がありました。
確かに、名前を書いた人物を殺すデスノートを持った主人公・月がデスノートのルールを把握して活用しながらキラとして新世界の王へとかけのぼり、一方でキラの「ルール」を推理しながら追いつめていくLによる頭脳戦を描いたサスペンス漫画『DEATH NOTE』、選択肢が一切存在せず繰り返される惨劇から「ルール」を把握する「ひぐらしの鳴く頃に」「うみねこの鳴く頃に」、時空を飛び越える少女を<時空間跳躍少女開発プロジェクト>のメンバーがその条件を探っていく『サマー/タイム/トラベラー』、悪魔的な配球を操り野球のルールを駆使しながら「ワンナウト」契約を軸にオーナーとマネーゲームをせめぎあう『ONE OUTS』など、ゼロ年代の作品として「ルールを把握する、活用する」というカテゴライズを行っても我田引水と言われない程度には多種存在すると思います。
そういう観点からすると、2008年から連載を開始し2009年に完結した本作『さよなら、ジンジャー・エンジェル』も出版は2010年ながらゼロ年代作品の一つとして位置づけてもよいかな、と個人的には考えます。
<シキイ>のルールを把握し、書店で働く少女を見守る泊司郎によるパートと、彼に見守られていることを気づかず、身辺に不思議なことが起こる少女・継美のパート。
二つのパートが交互に展開しながら、彼ら、彼女らの秘密が明らかになっていきます。
これまでの新城カズマ作品にあった衒学的要素は薄く、どちらかというと『15x24』と同種の色合いを魅せているこの作品。実際、『15x24』を読んだ方なら「おお、この人が」などと「つながっている」感をたっぷり味わえると思います。
帯には「ハートウォーミングストーリー」とありましたが、そっちの方を期待するとやや肩すかしを食らうかもしれませんが(笑)、新城カズマ作品をお好きな方、特に『15x24』から新城カズマ作品に入門された方々には是非とも読んで欲しい作品であり、もちろん新城カズマファンのフジモリは満足できた(それでいて新たな謎も増えた)一冊でした。