『ストレンジボイス』(江波光則/ガガガ文庫)
- 作者: 江波光則,李玖
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/01/19
- メディア: 文庫
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卒業式を間近に控えた中学三年生のとあるクラスでは、日々希に虐められすぎて不登校になっていた遼介が卒業式にやってくるらしいという話題が広がっていた。今更いったい何の目的で?他人と深く関わらないようにしながらも他人のすべてを知りたいという欲求にあらがえない水葉は遼介の家を訪ねるが、そこで復讐の意志を伝えられる……。といったお話です。
いじめがテーマの作品ではありますが、卒業式間近ということもあって、いじめの問題をどのように解決したらいいかとかが今更問題になったりはしません。いや、それこそがいじめの現実でしょう。卒業まで何とかしのぐこと。それがいじめ問題でのもっとも多い解のように思います。それほど厄介な問題ではないでしょうか。だからといって本書がいじめを肯定しているかといえば全然そんなことはなくて、クラスの推薦とか内申とかはボロボロです。あっさり描かれてはいますが、案外大事なポイントだと思います。ただ、遼介が受けた暴力は明らかに行き過ぎで、これだけのことをやってしまうとさすがに警察沙汰になると思います。とはいえ、学校生活に閉塞感・隔絶感が付きものなのも確かだと思いますし、そうしたものが物語を狭いものに成さしめているのでしょう。だからこそ学校を出た後の関係性の変化が面白くはあります。
いじめっ子の日々希といじめられっ子の遼介。そして本書の主人公(語り手)である傍観者の水葉。いじめ問題における構造的な配役で(この三人の誰か一人にでも友達がいれば話は全然違ってくると思いますが)、まったくの傍観者が主人公というのは珍しいかもしれません。ですが、読者的には共感しやすいポジションなように思います。見ているだけでいじめているのと一緒、とはよくいわれますし、それはそのとおりでしょう。しかし、傍観者には傍観者の事情があります。関わると自分がいじめの対象になってしまうというのもありますが、その生徒はその生徒で抱えている問題があるわけです。つまり、いじめによってクラスが構造化されることで、そうしたものが見えにくくなってしまうのもまた問題です。そうしたものは結局なにも解決されないまま、人生はなし崩し的でなるようにしかならなくて、そんなのとても小説に落とし込むことなどできやしない。そんな作者のねじくれた人生観が表現されている素敵な作品です。
それでいて、いじめにおける主要人物三人にこれだけ焦点が当てられているにもかかわらず、物語を動かすのはそれ以外の人物というのが面白いです。解決もなければ救いもなく陰鬱で冷淡な作品で、とてもじゃないですがオススメできる作品ではありません。でも、こういう作品の声は届くべき人のもとには黙っていても届いちゃうし聞こえちゃうのでしょうけどね……。