『とある飛空士への恋歌 3』(犬村小六/ガガガ文庫)

とある飛空士への恋歌3 (ガガガ文庫)

とある飛空士への恋歌3 (ガガガ文庫)

 裏表紙に「王道スカイ・オペラ」と表現されているとおりの内容なのですが、ところどころに歪みというか違和感を覚える箇所があったりして、それが正直気になります。
 その多くがノリアキについてです。まず、ノリアキのあだ名がノリピーなのは時事的にきついです(苦笑)。群集(モブ)というあだ名もありますが、これは漫画や映画・アニメなんかの用語です。なので、この世界でそうしたものが一般的なものとして広まっているのかな? というのが気になります。また、「やはりあなたは尋ねられたときに村の名前を言っているのが妥当な役割であるかと」(本書p52より)などとからかわれてますが。これなんかは完全にドラクエみたいなRPGネタのギャグなわけですが、そんなものがこの世界にあるとは到底思えません。
 それと、この物語は最初から「風呼びの少女」という風を自在に操ることのできる存在が登場してますし、世界の形も私たちが住んでいる世界とは異なるようなので、自然法則・物理法則といったものも私たちの世界のそれとは異なるかもしれませんし、そうであってもおかしくはありません。ただ、飛空士という題材が、空を飛ぶという行為が、揚力や空気抵抗といったものをどうしても想起してしまうのです。なので、規格外の運動能力を持った登場人物の存在が浮いてしまっているように思うのです。ハッキリ言ってしまうとシズカのことなのですが、日常パートはともかく戦場パートでの活躍は作中のフィクション度を乱してしまっているノイズのように思えてなりません。
 こうした歪みというものがどのような意図で盛り込まれているのか。無自覚という可能性もなくはないですが、それはないと思うのです。軽い気持ちのお遊びか。ストーリーが「王道」と評されていることに対する密かな反発か。あるいは、やがて起きるクレアの覚醒に際して大きくかき乱されるであろう物理法則の描写に対しての準備段階か。いずれにしても、ひとつ間違うと物語の世界観が台無しになりかねないだけに、今後も注視していきたいと思います。
 また、物語の方も『追憶』と大きく関わりを見せ始めてきました。同じ「飛空士」シリーズとしてそれほど意外な展開ではありません。ただ、『追憶』は非常に綺麗に閉じた物語です。『追憶』映画化&漫画化ということもありますし『追憶』を話題にしたいという意図も理解できますが、あの作品あの終わり方を大事にした展開にして欲しいなぁと一ファンとして願わずにはいられません(杞憂に終われば何よりですが)。
 とはいえ、基本的には面白かったです。敵の存在が明らかとなったことで不安を覚えつつも過酷な訓練を続けるうちに訓練生の間に芽生えてくる友情や恋愛関係。ですが空の現実は残酷です。失われる命。届かぬ言葉。失われる可能性。今巻ではカルエルとアリエルの関係が主に描かれていて、カルエルも飛空士としての才能の片鱗を見せ始めたりして、王道の評価に違わぬ内容です。続きは早めの刊行をお願いします(笑)。
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『とある飛空士への追憶』(犬村小六/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館
『とある飛空士への恋歌』(犬村小六/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館
『とある飛空士への恋歌 2』(犬村小六/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館
『とある飛空士への恋歌 4』(犬村小六/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館
『とある飛空士への恋歌 5』(犬村小六/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館
『とある飛空士への夜想曲』(犬村小六/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館