『金融探偵』(池井戸潤/徳間文庫)

金融探偵 (徳間文庫)

金融探偵 (徳間文庫)

 失業中の元銀行員・大原次郎は、就職活動中に金融絡みの事件について相談を受けたことをきっかけに金融探偵としての仕事を始めることになる。といったお話で、短編7本が収録されています。
 作者が元銀行員でビジネスコンサルタントとして活動しているという経歴の持ち主であるため、本書で描かれている金融探偵・大原次郎の活躍もそうしたコンサルタント業が探偵業にある程度落とし込まれているのは間違いないでしょう。とはいえ、コンサルタント業ではやらないような危ないこともしてますので、そこはやはりフィクションなのも間違いありません。
 もう少し面白く出来たんじゃないのかなぁ、というのが本書を読んでの正直な感想です。『金融探偵』というタイトルどおり本書は金融に関するトラブルが扱われてはいますが、金融についてのお勉強小説になってはいません。それは、融資とか粉飾決算とか倒産といった問題が昔と比べてそれだけ身近なものになったということでしょうし、つまりは巻末の解説でも指摘されているとおり、池井戸潤の時代が近づいてきている、という言い方もできるでしょう。だからこそ、お勉強小説になっていない点は評価できるのですが、もう少し難易度を上げてもよかったように思うのです。短編集ですしネタが小さめになるのは分かるのですが、もう少し読み応えのある作品を期待していたのでちょっぴり残念ではあります。
 以下、短編ごとの簡単な雑感。
 「銀行はやめたけど」はイントロダクション的作品ですが、就職活動しながら金融探偵を始める流れが自然に描かれています。プラスチックスは捻りのないRPGみたいな単調な展開ですが、それが「プラスチックス」の意味するところだと理解するのは深読みし過ぎかしら?(笑)。「眼」はオカルトだよ金融関係ないよで初読時には不満たらたらでしたが、今回再読した限りではそこまで悪くは思いませんでした。何でも数字で割り切ってしまう金融業だからこそ、こうした割り切れない話があってもいいのかも。とは思いますが、それでも話自体はやはりイマイチです。「誰のノート?」「家計簿の謎」は続きものです。家計簿からそれを記入した人物の輪郭を読み取り、そらにはその背景にある謎まで読み解くというアイデアと構成は金融探偵ならではでとても面白いです。ただ、中身はこんなに小洒落たものでなくてもよかったと思いますが……。「人事を尽くして」。いくら頼まれてもそんなこと引き受けちゃ駄目だと思います。「常連客」。……なんで次郎に事件解決を依頼したんでしょう?(笑)
 着眼点や発想は面白いと思うのですが、それだけに、お話としてはイマイチなのが非常にもったいなく感じる一冊でした。