『デス・コレクターズ』(ジャック・カーリイ/文春文庫)

デス・コレクターズ (文春文庫)

デス・コレクターズ (文春文庫)

 30年前に法廷で射殺された大量殺人犯へクスキャンプ。へクスキャンプは自らの思想や殺人の様子を芸術作品(アート)としてコレクションしていた。そして現代。異常犯罪専従の刑事カーソンとハリーは蝋燭と花によって装飾された被害者の捜査を担当することになる。その線上で浮かび上がってくる病的な絵画の断片。過去の事件は現代の連続殺人とどのような関係にあるのか?犯人はいったい何者なのか?そして動機は……?といったお話です。
 本書は『百番目の男』に続くシリーズ2作目です。前作ではあまりにも意外すぎる動機に注目が集まりましたが、本書で行なわれる連続殺人の動機は前作のそれと比べるとそんなに意外ではありません。ですが、合理性が含まれている分、前作とは違った面白さを堪能することができます。
 本書のタイトルである『デス・コレクターズ』とは、一義的にはシリアル・キラーの記念品コレクターのことを指します。ですが、連続して発生する殺人事件と照らし合わせれば、”死”そのものをコレクションしている犯人を表しているものだともいえるでしょうし、あるいは常に死と向き合っているカーソンたち捜査官のことだともいえるでしょう。いずれにしても、どいつもこいつもまともな人間とはいい難いです(苦笑)。
 過去の大量猟奇殺人犯であるへクスキャンプの病的な思想が表現されているアート。まるでそれらが引き起こしているかのごとく発生する連続殺人。そこには、”アートによって操られた殺人”という事件の構図を見ることができます。また、事件についての情報を犯人自らがマスコミにリークすることで、捜査官であるカーソンとハリーをどこかへ導こうとします。ここにもまた”操り”の構図を読み取ることができます。いったい何が何を操っているのか? 犯人が探偵役の存在を意識した上での操りという問題意識はいかにも本格ミステリ的ですが、そこに隠された犯人の真意にはかなり意表を突かれました。ある意味アーティスティックといえるかもしれませんね(笑)。
 サイコ・サスペンス、あるいはシリアス・キラーを題材としたものの多くは、常軌を逸した殺人犯の心の闇を探ろうとします。その結果、ミイラ取りがミイラになるかのごとき緊張感が生まれ、作品から陰鬱な雰囲気を醸し出されることになります。ところが、本シリーズの場合にはそうした陰鬱さとは無縁です。確かに、殺人犯の動機は謎です。そして人は謎に惹かれます。ですが、分からないのは何もシリアス・キラーの心ばかりではありません。人には身近にいる人の心すら分からなくて、そのことへの苦悩や謎の深刻さに比べたら、シリアス・キラーの心の闇とやらへの興味などたかが知れています。そんなバランス感覚の妙が本シリーズの魅力です。前作からの読者として、カーソンとアヴァの関係がいきなりの変化を迎えたのには驚きましたが、それもまた本書においては必要な事柄だったのだと理解することができます(そんなメタな読み方をするのは我ながらどうかとは思いますが)。
 癖のある人物、癖どころではすまないイカレた人物が複数登場しますし、ストーリーも割りと複雑ではありますが、結末はきちんとまとまっています。シリーズものとしての信頼を得るだけの内容のある作品だといえるでしょう。
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